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TORENDIA

豊竹呂昇

本文約6,600字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

豊竹呂昇の芸風と波乱に満ちた半生を綴る。若き日の悲運を乗り越え、天性の美音と情熱的な語りで聴衆を魅了した彼女は、東京の有楽座を中心に多くの熱狂的な支持者を得る。町人の若女房を演じる際の人間味溢れる表現や、聞く者の青春の痛みを呼び起こす魅力について論じる。また、かつての隷属的な契約関係に苦しみながらも、芸に打ち込み自立を求めて歩んだ軌跡を回顧し、その華やかな名声の陰にあった絶え間ない苦悩や葛藤の歴史を描く。

長谷川時雨

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🎧 豊竹呂昇 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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私は今朝の目覚めに戸の透間からさす朝の光りを眺めて、早く鶯が夢をゆすりに訪れて来てくれるようになればよいと春暁の心地よさを思った。如月は名ばかりで霜柱は心まで氷らせるように土をもちあげ、軒端に釣った栗山桶からは冷たそうな氷柱がさがっている。崖の篠笹にからむ草の赤い実をあさりながら小禽は囀っている。

寒明けの日和はおだやかで、老人たちが恋しがるばかりではない日の光りはのどかだ。

(ほんとに早く鶯の声を聴くようになるといいな)

あの寝ざめの、麗音をなつかしみながら私は呟やいた。町中に生れ育った私は、籠に飼われない小禽が、障子のそとへ親しんで来てきかせてくれる唄声を、どれほどよろこんでいたかしれない。真冬の二月は頬白も目白も来てくれないので、朝はいつもかわらない雀の挨拶と、夜は時おり二つ池へおりる、雁のさびしい声をきくばかりだった。

去春は毎朝窓ちかくへ来て鳴いてくれたあの声、鶯は日中は遠く近くをゆきかえりして円転と嬌音をまろばした。あの友だちが一日もはやく来てくれるといいと思いながら、夜具の襟裏ふかく埋もれて、あれやこれやはてしなくする想像は、私にとっては一日中の楽境であり、愉快な空想の天国でもあり、起出してしまえば何にも貧しく乏しい身に、恵まれた理想郷でもある。

私はふと、曩日、初代綾之助の語るのを、ゆくりなく聴く機会のあったことを思いだした。寒い寒い晩に、寒風に吹かれながら久しぶりで見聞きする興味にひかれて、寒さに顫えながら煙草のけむりと群衆のうごめくなかに隅の方へ坐った。騒然たる四辺を見ると、決して驕った心からではないが、あんまり群集の粗野なのに驚かされた。楽声を聴いて心を悦ばせるには、上品でなくてはならないというのではないが、いかにも穢苦しい感じを与えられた。下卑ていたこともいなまれなかった。

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