本文へ移動
TORENDIA

平塚明子(らいてう)

本文約6,400字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

平塚明子(らいてう)への敬慕と友情を綴る書簡形式の評論。著者は、激しい時代の波の中で女性の覚醒と解放のために闘い続けた平塚の苦難と信念に深く共感し、その真摯な生き方を称える。周囲からの無理解や中傷にも屈せず、自らの太陽を取り戻そうとした開拓者としての姿を浮かび上がらせる。あわせて、女性解放の先駆けとなった雑誌『青鞜』創刊の経緯や意義を解説し、先駆者としての彼女が社会に与えた衝撃と変革の軌跡を歴史的な視点から記録する。

長谷川時雨

速度
🎧 平塚明子(らいてう) / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 10

一

らいてうさま、

このほどお体は如何で御座いますか。爽やかな朝風に吹かれるといかにもすがすがしくて、今日こそ、何もかもしてしまおうと、日頃のおこたりを責められながら、私は、貧乏な財袋よりもなお乏しい頭の濫費をしつつ無為な日を送っております。

御あたりはお静かでございますか。田舎での御生活は、どこやら不如意なようでいて、充実されたものであろうと、お羨しくぞんじます。あなたのお体にもよし、御家庭にもしみじみとした味の出た事と存じます。お子さまがたは、御自分たちのお母さまとして、日夜お傍に親しむことのお出来になるのを、どんなに現わし得ない感謝をもって、およろこびなされている事かと、あたくしでさえ嬉しい心地がいたします。そして風物は悠々として、あなたの御健康を甦えらせていることとぞんじます。

二

らいてうさま、

那須野を吹く風は、どんな色でございましょう。玉藻の前の伝説などからは紫っぽい暗示をうけますが、わたくしの知る那須野の野の風は白うございます。冬など、ふと灰色がかるようにも感じられますが、わたくしには何となく白いように思われます。その白さも、薔薇の白ではなくて、白夜、白雨といった感じ、夏らしい清新の感がともなっております。

わたくしは那須野をよく知りません。奥州へ行ったおり、時折通りすぎた汽車の窓からあかず眺めて通ったところで御座います。あの広々した野を見ると、せせこましい、感情にのみ囚われている自分から解きほどかれて、自由な、伸々した、空飛ぶ鳥のような勇躍をおぼえました。わたくしは山は眺めるのを好みます。海の眺めも好きです。が、野の景色ほどしみじみと好きなものはございません。あかず行く雲のはてを眺め、野川の細流のむせぶ音を聞き、すこしばかりの森や林に、風の叫びをしり、草の戦ぎに、時の動きゆく姿を見ることが望みでございます。むさしのに生れて、むさしのを知らぬあこがれが、わたくしの血の底を流れているのでございましょう。

長谷川時雨の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本