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TORENDIA

芳川鎌子

本文約17,400字 ・ 読了時間 約35分

あらすじ(AIが作成しました)

大正六年に発生した芳川鎌子をめぐる心中事件について、当時の社会の反応や世論の動向を綴る。華族の夫人という身分でありながら自動車運転手と心中を図ったことで、世間からは不倫として激しい侮蔑や嘲弄を受ける。本作は、メディアの過熱報道や道徳的な立場による議論を俯瞰しつつ、事件後に心身の癒えない彼女が辿ったその後の境遇と、周囲の人々が抱く複雑な視線を記録する。著者は、外側から断罪される彼女の姿を通して、個人に貼り付けられたレッテルと現実の隔たりを論じる。

長谷川時雨

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一

大正六年三月九日朝の都下の新聞紙は筆を揃えて、芳川鎌子事件と呼ばれたことの真相を、いち早く報道し、精細をきわめた記事が各新聞の社会面を埋めつくした。その日は他にも、平日ならば読者の目を驚かせる社会記事が多かった。たとえば我国の飛行界の第一人者として、また飛行将校のなかで、一般の国民に愛され、人気の高かった天才沢田中尉が、仏国から帰朝後、以前の放縦な生活を改めて自信ある、自らの考案になった機に乗って斯界のために尽そうとした最初の日に墜落して名誉の犠牲者となったということや、米国大使が聖路加病院で逝去されたことなどが報じられた。それらの特報は大きな注目を受けなければならないのに、多くの人の目は多くというより、その悉くが鎌子夫人事件の見出しの、初号活字に魅惑されてしまった。

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