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TORENDIA

一插話

本文約2,500字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

カプリ島から巴里へ戻ったリルケは、彫刻家ロダンとの親交を深めながら、新詩集の執筆に没頭する。徹底した孤独の中で創作を続ける彼は、ロダンから借り受けた卓子を愛用し、やがて代表作となる「マルテの手記」の執筆に取りかかる。夜ふけまで続く執筆の灯火は、同じホテルに住む別の詩人の心に刻まれる。本作は、詩人が深い孤独と向き合いながら創作の深淵へ降りていく様子や、その執筆風景を回想を通じて綴るものである。

堀辰雄

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🎧 一插話 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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一九〇八年の春、伊太利のカプリ島に友人に聘せられて再遊し、その冬獨逸で發した宿痾を暫く療養して居つたリルケは、漸くそれから恢復するや、前年來の仕事を續けるために、五月、四たび巴里に出て來たのであつた。先づ、シャンパアニュ・プルミエェル街十七番地にささやかなアトリエを構へた。彼と殆ど前後して、妻のクララも獨逸から巴里にやつて來た。やはり、此の都で彫刻の仕事をするためにである。しかし、リルケはその妻にすら一週間に一度くらゐしか會はずに、ひたすら自分の仕事に沒頭した。仕事といふのは前年その第一卷を上梓した「新詩集」の別卷を完成せしめる事であつた。先頃の一時的不和からは既に完全に和解してゐたロダンにさへその間はあまり會ひに行かずにゐたらしく、五月十二日付のロダン宛の手紙を見ると、「……不本意にも長いこと何もせずに居りましたので、私はいま、全く一人きりで、自分の仕事と共に閉ぢこもつてゐなければなりませぬ。これまでの數ヶ月といふもの、世間の人達と附き合つて居なければならず、そのため仕事もあまり出來ませんでしたので、私のうちにいままでよりもずつとはつきり目立つて來てゐる孤獨への傾向を、貴方は誰よりもよくお分かりになつて下さるでせう。……」又、七月二十日付の手紙には、「……私は自分の家に、核がその果實の中にとぢこもつてゐるやうに、閉ぢこもつてゐます。そして食事にしか外出いたしませぬ。私の妻すら、一週に一度、ちよいと私の樣子を見にくるだけです。私の本は八月末までに仕上げてしまはなければなりません。……」

そのやうな孤獨の裡に「新詩集別卷」は八月末脱稿せられた。その卷頭に「アポロの古拙なるトルソ」なんぞと題せられた詩を載せてゐる此の詩集は、その「大いなる友」オオギュスト・ロダンに捧げられた。

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