人狼
本文約22,800字 ・ 読了時間 約46分
あらすじ(AIが作成しました)
慶長初年の九州の山村で、村を荒らす人食い狼の噂が人々の不安を煽る。浪人の田原弥三郎は、妻のおいよの身を案じつつも、人々に恐怖を与える狼を退治しようと執念を燃やす。やがて夜の闇の中で狼の姿を見かけた弥三郎は、渾身の力で引き金を引く。本作は、獣の気配に怯える人々の心理と、すれ違いの悲劇を通じて、暗い山村で繰り広げられる不可解な惨劇の様子を描く。
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登場人物
田原弥三郎
弥三郎の妻おいよ
弥三郎の妹お妙
猟師 源五郎
ホルトガルの宣教師 モウロ
モウロの弟子 正吉
村の男 善助
小坊主 昭全
村の娘 おあさ、おつぎ
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第一幕
一
桃山時代の末期、慶長初年の頃。秋も暮れかかる九月なかばの午後。
九州、肥前国。島原半島に近き山村。田原弥三郎の家。藁葺屋根の二重家体にて、正面の上のかたに仏壇、その下に板戸の押入れあり。つづいて奥へ出入りの古びたる障子。下のかたは折りまわして古びたる壁、低き竹窓。前は竹縁にて、切株の踏み段あり。下のかたの好きところに炉を切りて土瓶をかけ、傍らに粗朶籠などあり。庭には秋草など咲きて、上のかたには大竹薮あり。下のかたには低き丸太の柱を立て、型ばかりの木戸あり。木戸の外には石の井戸ありて、やや赤らみたる柿の大樹あり。うしろは田畑を隔てて高き山々、恰もこの村を圧するが如くに近くみゆ。
(弥三郎の妹お妙、十七八歳。村の娘おあさ、おつぎと共に針仕事の稽古をしている。百姓善助、五十余歳、鍬を持ちて縁に腰をかけている。砧の音きこゆ。)
善助 みんな好く精が出るな。なんと云っても、女は針仕事が大事だ。こう遣って精を出していれば、どこへでも立派にお嫁さんに行かれるぞ。はははははは。
(弥三郎の女房おいよ、二十七八歳、色白くして品よき女、奥の障子をあけて出づ。)
おいよ 善助さん。あさ夕はめっきり冷えて来ましたな。
善助 いくら九州はあたたかいと云っても、九月の声を聞くと秋風が身にしみて来る。どこかで砧を打つ声が聞えたり、この娘たちが冬物を縫っているのを見たりすると、冬がもう眼の前へ押寄せて来たように思われますよ。
おいよ まったく冬はもう眼の前……。(娘等をみかえる。)それでも皆んなが精を出すので、親御さん達は仕合せです。
善助 それもお前が気をつけて、よく仕込んで呉れるからのことで、近所でも皆んな喜んでいます。時に旦那どのは、まだ山から戻られませんかな。
おいよ いつもの通り、朝から出て行きましたが、此頃はちっとも猟がないので、それからそれへと獲物をあさって、あまり深入りをせねばよいがと案じています。