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TORENDIA

木曽の怪物

本文約2,300字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

明治二十三年の春、信州軽井沢へ逗留していた著者の父は、吹雪の中で宿を訪れた猟師から木曽の山奥に潜む怪物の話を聞く。獲物に姿を変えて人を崖へ誘い込む魔物や、巨大な道具を担ぐ僧侶の幻影を見せる正体不明の存在。山中で鳥撃ちを生業とする猟師たちが幾度も遭遇した、人知を超えた異様な体験の数々を綴る。彼らが語る不思議な出来事を通して、信濃路の山々に棲まうとされる正体不明の怪異の実態に迫る。

岡本綺堂

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🎧 木曽の怪物 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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これは亡父の物語。頃は去る明治二十三年の春三月、父は拠ろなき所用あって信州軽井沢へ赴いて、凡そ半月ばかりも此の駅に逗留していた。東京では新暦の雛の節句、梅も大方は散尽くした頃であるが、名にし負う信濃路は二月の末から降つづく大雪で宿屋より外へは一歩も踏出されぬ位、日々炉を囲んで春の寒さに顫えて[#「顫えて」は底本では「顛えて」]いると、ある日の夕ぐれ、山の猟師が一匹、鹿の鮮血滴るのを担いで来て、何うか買って呉れという。ソコで其の片股だけ買う事に決めて、相当の価を払い、若も暇ならば遊びに来いと云うと、田舎漢の正直、其の夜再び出直して来た。此方も雪に降籠められて退屈の折柄、其の猟師と炉を囲んで四方山の談話に時を移すと、猟師曰く、私は何十年来この商売を為ていますが、この信州の山奥では時々に不思議な事があります、私共の仲間では此れを一口に『怪物』と云いまして、猿の所為とも云い、木霊とも云い、魔とも云い、その正体は何だか解りませんが、兎にかく怪しい魔物が住んでいるに相違ありません。と、冒頭を置いて語り出したのが、即ち次の物語だ。因に記す、右の猟師は年のころ五十前後で、いかにも朴訥で律儀らしく、決して嘘などを吐くような男でない。

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