本文へ移動
TORENDIA

「神々のへど」

本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

室生犀星の旺盛な製作力や、その仕事に向かう姿勢を側近者の視点から綴る。また、著者の諸作に見られる不合理で混沌とした美しさを分析し、カトリック作家モオリアックとの対比を通じて、作者独自の日本人らしい独創性を論じる。さらに「神々のへど」や「兄いもうと」といった作品が持つ悲劇的な美しさに触れ、室生文学における不合理な要素が物語にもたらす深い効果を考察する内容である。

堀辰雄

速度
🎧 「神々のへど」 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 3

室生さんのこの頃のお仕事ぶりは、私などのやうなずつと昔からの側近者にとつても、本當に驚嘆の他はありませぬ。立派なお仕事が次から次へとお出來になる、――その何と云ひますか、製作力の旺盛なことは、それもただはげしいと云ふばかりでなく、實によくコントロオルのとれてゐることは、作家として實にいい生活をなさつていらつしやるからだと思ひます。――私などがふだん接してそのお仕事ぶりを見てゐますと、實に室生さんは「仕事の雰圍氣」といふものを始終しつかりと掴んでいらしつて、一日とて油斷をしてそれを手離すやうなことをなさらない。若しインスピレエションなんといふものがあるとしましても、それは室生さんにとつては、決して他の人達が考へるやうに遠くから來るものではなく、いつも室生さんの手の屆くところにゐるやうに、平生から飼ひ馴らされてゐるやうな感があります。さうして室生さんはいつもさういふ「仕事の雰圍氣」といふものを大事にされてゐて、少しも無理強ひをなさらない、――如何にもすうつとその中にはひつて行つて、其處で一人で何か見えないものとはげしい格鬪をなされた後、又すうつとその中から何事もなかつたやうに出ていらつしやる。どんなにはげしい仕事の後でも、そしてまだその頭の一部分は今のさつきまでお書きになつてゐた悲劇の雰圍氣に何處か浸つてゐるやうな折でも、側目には少くとも、室生さんはいつもすつぱりとした、むしろ颯爽としたやうな顏つきをしていらつしやる、それは私たちまでも何か氣待よくさせるものがあります。私たち年少のもののこれから最もお手本とすべき點であらうかと思ひます。

「神々のへど」の悲劇的な結尾のところに、「あをざめ切つた眼のふちは灰だみた濁りをながして、見樣によつて物すさまじい或る美しさを感じる」といふ一行がありますが、私は室生さんの書かれるすべての悲劇に、さういふ「物すさまじい或る美しさ」を感じるやうな見方からのみ、それ等を見てゆくやうにと心がけてゐます。さういふ私は、「神々のへど」集中でも「兄いもうと」及び「神々のへど」の二篇を最も好むものであります。

堀辰雄の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本