ジャズ狂時代
本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
隅田川の畔で、一人娘のポッポを連れた隣人から国際劇場のジャズ大会への同伴を頼まれた小野は、ジャズ歌手を夢見る少女と共に会場へ向かう。日本全土がジャズ熱に浮かされる中、超満員の劇場は熱狂の渦に包まれていた。トニー・谷の司会や雪村いづみ、ジョージ・川口らによる演奏が続くステージを目の当たりにしたポッポは無我夢中となり、観客たちも音楽と一体となって法悦の境地へ引き込まれていく。熱病のごときジャズ狂時代を描く。
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お嬢さんはジャズがお好き
浮風にさそわれて隅田川のボート・レースをながめていたら、
「アラ、小野の旦那、いいところでお会いしましたわ」
お隣りの奥さんが一人娘のポッポちゃんをつれて、途方に暮れた顔。
「このポッポたらしょうがないのですよ、私が猫の手でも借りたいぐらい忙しいというのに、馬鹿々々しいたら、国際のジャズ大会につれて行けっていうんですよ。こんなアプレ娘一人でやれば、何を仕でかすかわからないし、しかたがないのでここまでは来ましたが、どうせ先生は遊んでいるんでしょう。イイエ、いつもブラブラしていらっしゃいますんでしょう。このジャズ娘連れて行ってやって下さいな。ほんとにこまったオッチョコチョイ娘ですよ。ではおたのみしましたわよ、これでも私の一人娘、掌中の珠みたいなものですから、そそっかしくあつかわないでちょうだい、ではよろしくオホホ、これで安心」
チョチョ、ちょっと待って、というひまもなく、人混の中に消えて行ってしまった。
「ヘヘエ、小野のオジさん連れてってね――」
十六娘のくせに、ちょっとウィンクした。
「うちのお母さん馬鹿なのよ、私がジャズを勉強して、素晴しいジャズ・シンガーになる、そうすれば美空ひばりや江利チエミのように有名になるでしょう、素晴しいわ、一本の映画出演料が二百万円、一回の舞台出演料が十万円、私の眼が鳩のように可愛いいってポッポていうのよ、芸名は鳩ポッポとするわ、すごいなあ、そうなれば、お母さんも豪勢な家に住めるし、自家用車も二台位もてるのに、神ならぬ身の知るよしもなく、お母さんたらジャズ娘、ジャズ娘って怒るのよ」
アア世はまるで熱病か台風のように、日本全土は猛烈な勢いでジャズ熱に浮かされているのである。救われざるジャズの群の一人ポッポちゃんも、ここに早や百度程度の高熱患者である。
「サァ、おじさん早く行こう、レッスンしに」「レッスン?」
「ポッポにとっては国際劇場は教室よ」
アアわれここに至りては負けたり、歩くのにもジャズの如く踊りの如く、人の流れにおし流されて行ったのである。
超満員のホット・ジャズ