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TORENDIA

牛経

本文約710字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

吉原の花扇は、蜀山人の句「牛も鳴き狐も鳴きて別れ哉」の真意を解せず亀田鵬齋に教えを乞う。その後、蜀山人が書き残した謎の一筆を巡り、鵬齋の助けを借りて「風月を裸になして角力かな」という真意を悟る。本作は、文人墨客と名妓が織りなす風流な交流を描き、蜀山人や鵬齋のような粋人がいた時代を懐古しつつ、大正の世の風潮を鋭く綴る。

大町桂月

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牛も鳴き狐も鳴きて別れ哉

古原第一の名妓と謳はれたる花扇、千思萬考すれども、解する能はず。終に閉口して、なじみの龜田鵬齋を呼び寄せて、之を問ふ。鵬齋打笑ひて、そなたは振つたるよな、人もあらうに、蜀山人を振るとは、さて/\殘念なることをしたるものかなといふ。振つたりと聞きて驚き、蜀山人と聞きて、猶更驚き、膝を進め、腰を搖がして、その故を問へば、牛は何と鳴くぞ、もう/\、狐は何と鳴くぞ、こん/\。初會に振られたる故に、もうこん/\とて、裏を返さざるなりと言はれて、うれしや、句の意は分りたり。蓬頭粗服、風采あがらざる一老書生なりしに、それを蜀山人とは、如何にして知り給ふぞと問へば、凡そ天下ひろしといへども、今の世、蜀山人ならで、かゝる句を咏み得るものあらむやと言はれ、吉原第一も今日限りと、齒をくひしばり、わつとばかり泣き伏す。

水莖の跡うるはしき一片の玉章は、牛と鳴き、狐と鳴きし蜀山人を吉原に呼び寄せぬ。桃と櫻を兩手にもちて、どちが桃やら、櫻やら、右に鵬齋先生、左に蜀山人、天下の風流はわが一身に集まれりと、小さき鼻うごめかしけるが、蜀山人の書き殘したる一筆、※[#「冫+虫」、37-13]の字を何と讀むぞと、宿題をかけられて、はてな/\、二水に虫、玉篇にもなく、康起字典にもなし。又も閉口して、ひそかに鵬齋の智慧を借りて、うれしや/\、

風月を裸になして角力かな

と分り、につと笑つて、なじみの日の來たるを待つ。

世は何處まで下りゆくことぞ。大正の聖世、學者はあり、文人はあり、歌人はあり、俳人はあり、記者はあり、小説家はあり、娼妓はあり、藝妓はあり、高等の内侍はあり。而して鵬齋なく、蜀山なく、花扇なし。(大正五年)

完

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