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TORENDIA

好日

本文約50,900字 ・ 読了時間 約102分

あらすじ(AIが作成しました)

梅雨の晴れ間に、邸宅で執筆を試みる劇作家の三好十郎を描く。邸内では、自身の内なる人良さを斬るために日本刀を携えて出征を控える堀井博士や、金銭の清算を巡る出版関係者とのやり取り、そして同居する登美との複雑な距離感が交錯する。追い詰められた状況下で、三好は自身の無力さと悲哀を受け入れ、「日々、好日」という境地を見出し、再び机に向かう姿を通じて、極限的な日常の精神的風景を映し出す。

三好十郎

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1 朝

オルゴールの曲。

室数二十は下るまいと思われる、堂々たる邸宅の、庭に面した二つの座敷。梅雨季の薄曇りの朝。石も樹も格式通りに布置されてサビの附いた庭が、手入れを怠ったため、樹や草の少し伸び過ぎたのがムッと明るい。座敷の、上手の広い室(十五六畳)の縁側近く据えた紫檀の机の前に坐っている三好十郎。机の上には、原稿紙とペン、それから今鳴りわたっているオルゴールしかけの卓上煙草入れ。その辺の調度類とも、まるきり、ふさわしく無い青しょびれた[#「青しょびれた」は底本では「青しよびれた」]風貌で、セルの着物の袖つけの所の大きくほころびたのを着て、痩せた肩を突っぱらしている。煙草をくわえたまま、ボンヤリとオルゴールに聞き入っている。邸内はシーンと静まり返っている。……オルゴール、曲を奏し終って鳴りやむ。……三好、しばらく原稿紙を見詰めていた末、フト、ペンを取り、書きそうにするが、またペンを置き、何か考えていてから、ブルンと頭を振って、煙草を取ってパタンと煙草入れのふたをすると、オルゴール再び鳴り出す。三好、煙草に火をつけるのも忘れ、それをボンヤリ聞いている。……間。……オルゴールの曲が終りに近づく。

奥の襖を開けて入って来るお袖。四十六七の、腺病質らしい、垢抜けのした、銀杏返しの女。

お袖 ……よくよくお好きなんですねえ、ほほほ……。

三好 (夢から醒めたように)なんですか?

お袖 いえさ、こないだっから、そればっかり聞いてらっしゃる。

三好 やあ。ハハ。……先生は?

お袖 奥の倉の中。

三好 見つかりませんか?

お袖 タンスや長持ちが開けられさえすれば、チャンと御先祖伝来のもんですからねえ、いずれどこかに有るにゃ有るんですけどね、たいがい、ペタペタやられているんですから。

三好 持って行かせたいなあ。

お袖 先生だって、そりゃねえ……ごらんなさいよ、あの朝寝坊さんが、こんなに早く裏口なんぞから入って来てさ、クモの巣だらけになってかき廻していらっしゃる。先生の気性を知っているだけ、私なぞ、出来ることなら――。

三好 引っぺがしゃいい。

お袖 だってさ、(両手を背後にまわして見せる)これですもん。

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