TRENDIA CLASSIC

夜の道づれ

三好十郎

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走り過ぎる自動車のクラクション。

夜ふけの町かど。

深い闇の奧に白くもうろうとそびえ立つているビルディング。こちらは、夜空に黒くおしつぶされた家々。

とぼしい街燈が、あたりを明るく照し出すためよりも、かえつて暗くするためのように、ポツリポツリとついている。

なんの物音もない。

いちばん近い街燈の丸い光の中に、中年の男が一人、自然木のステッキをついて立つている。古い背廣にヨレヨレのレインコートを着て、飲みつづけた酒の醉いのさめかけた、デロリとした蒼い顏が鳥打帽の下からのぞいている。

腕時計を見る。

奧の四つ辻のあたりに鋭どい光が飛び散り、高級自動車のクラクションとエンジンの音が右から左へサッと過ぎる。男は、その方を見送つてから、やがて右手をズボンのポケットに突つこんでクシャクシャのサツをつかみだす。それを左手に移し、ステッキをわきの下へ、右手でもう一度ポケットをさらつて、兩手のサツを見調べる。かさは多いが、たいした額にはならぬようだ。全部をポケットにもどし、フンといつて歩きだす。すこし猫背の肩に荷物でも背負つているような歩きかたである。近くで、かすれた人聲がする。

聲 ……(やつと聞える位になるが、まるで感情のこもらない、間のびのしたねごとのように)……いいじやないか、よう。助けてくんな、よう。……助けてくんなよう。 男 ……[#「 ……」は底本では「……」](踏みだした足をとめて、眼で聲のありかを搜す) (その視線の先きの、街路樹の根もとにグタリと抱きついて片脚を幹に卷きつけている洋服の男)

洋服 よう。(足がらみで樹を押したおそうという氣らしい)おい! (こつちの男は、それを見ている)

洋服 だろう? ……助けてくれ。なあ。助けて、くれ、た、その上で――(歌のような、お經のような節になつている) やがて男は、なんの表情も現わさないで、ノソリと闇の中へ。うしろから、にぶい聲が「………よう!」と追いかけてくる。

男は街路を左へ横切る。

遠くで夜汽車の汽笛。

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