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TORENDIA

逗子物語

本文約35,100字 ・ 読了時間 約71分

あらすじ(AIが作成しました)

逗子の了雲寺に通うようになった語り手は、荒れ果てた墓場で幼い少年の幽霊と出会う。周囲から狂人扱いされながらも、語り手は死んだ妻を懐かしむ寂しい心境の中、いつしかその少年と不思議な交流を育むようになる。やがて少年との対話を通じて語り手は自らの閉ざされた心を開放し、亡き友となった少年を慈しむことで、自身の孤独と向き合いながら静かな精神の平穏を取り戻していく。

橘外男

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一

逗子に了雲寺という天台宗の寺がある。詳しく言えば、逗子とは言ってもここは田浦との中間地点、むしろ田浦の方に位していると言った方がいいのかも知れぬが、東京からの避暑客などは道の遠いのとあまりにも物淋しいのとで、ほとんど顧みる人もいなかった。

田越川に沿うて神武寺を左に眺めつつ三崎街道の埃っぽい道をどこまでもどこまでも伝わって行くと、やがて小一里近く道は二股に分れて、一つはその埃っぽい道を左の方へ単調に続けて行き、一つは石礫の多い山坂道を右の方へと分け入って行く。

了雲寺というのはこの右の方へ山ふところを分け入ったところにあったが、行くこと更に七、八町、道は再び豁然として開け、やがて左側の大きな欅の樹陰に色褪せた旗を立てて一軒の百姓家が往来も稀れな通行人のために草鞋三文菓子なぞを商っている前へと出る。そのすぐ向うからもう長々とした石段の入り口になって、そこには不許葷酒入山門と六朝風な字で彫った古い苔むした自然石が倒れ掛かっていた。そして胸を衝くような長い石段が――こんな名もない田舎寺には勿体ないような長いじめじめとした石段が見上げるような頭上の山の頂に列なっていて、深々と山を掩った昼なお暗い老杉がいつ来て見てもザワザワと揺れ立っていた。まるで石清水でもそこら中から湧き出そうな幽邃な肌寒い感じであった。

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