ナリン殿下への回想
本文約61,600字 ・ 読了時間 約124分
あらすじ(AIが作成しました)
昭和の日本、印度商館を訪れた作家は、そこで気品あふれる美少年・シュータンと出会う。カパディア氏から彼が印度の恩人の子であると教えられ、作家は少年と交流を深める。その後、太子殿下を伴い三池信託株式会社へ融資の交渉に向かうが、理不尽な扱いを受ける。帰国した一行に届いたのは、船上での殿下と従者シャアの急逝を報じる電報であった。英帝国の陰謀を確信する商館の人々の悲憤に接し、作家は若くして散った殿下を偲ぶ。
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一
昨年の八月中頃、ヒューゲッセン大使負傷事件を契機として我が国に対する英帝国の態度が、そろそろ敵意を帯びた奇怪なものに映り出していた頃であったと記憶している。何かの用件である日の夕方、ヴァローダ商会という印度商館へ訪ねて行ったことがある。電車通りに面した事務所には、相変らず所狭いまでに各種の器具機械類が並べられて、三人ばかりの日本商人が注文欲しげな顔で売り込みに控えていた。そして番頭のジョージ・依田という二世の少年や、そのほか私が顔も見知らぬ印度人たちが主人公のカパディア氏の周りに、立ったり腰かけたりして店はいつものように混雑を極めていたが、
「HALLO! HALLO!」とその中を分けて、カパディア氏は懐かしそうに私の手を握った。自分の机の側に椅子を勧めながらそこらにいる印度人たちに、「MR・タチバナ! K・三田谷商店の支配人で有名な作家!」と紹介してくれた。有名な作家とは驚いたが、外国人の中には得て自分の友達をこういう風に高く祭り上げて、暗に日本における自分の交際を誇示したがる人々がある。どうせ相手は日本語のわからぬ印度人だし私だって生れた時から実話書きになるつもりで世の中へ出て来たわけではないから、たまに一度ぐらいは有名な作家面もしてみたくなるヨ。ともかくそのまま、高名雷のごとき顔をして腰を落ち付けたと思ってくれ。どうぞよろしくと小腰を屈めて名刺をくれる黒チャンたちは、いずれもシャシカント、マヘンダーラ、ワサント、ナナヴァティなぞという印度人特有の妙な名前をした連中ばかりであったが、今何をお書きになっていますかとか、どういう物語に興味がおありですかなぞと、知らぬが仏ですっかり大作家扱いをして聞くから私も悪い気はせず、頤を撫でながら感極まっていた。そのうちにジャヴェリという大変なものを読んだ代物があらわれて、
「MR・谷崎の春琴抄を英訳で読みました。主題がそう優れているとは思いませんでしたが、人物の性格は大変面白く感じられました。タニジャーキという作家はどのくらいの地位の人でしょうか?」と聞くから、