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TORENDIA

棚田裁判長の怪死

本文約23,000字 ・ 読了時間 約46分

あらすじ(AIが作成しました)

旧藩の城代家老の家系である棚田家には、先祖が腰元を惨殺したという伝承と、その怨霊にまつわる不穏な噂があった。ある時、棚田判事は同僚の判事と共に孤島へ赴き、不可解な死を遂げる。科学では解明し得ない事態に直面した語り手は、判事の先祖が抱えた因縁と怨霊の存在を確信する。やがて無人の屋敷が怪火で全焼し、焼け跡から古びた女性の遺骨が発見されたことで、語り手は事件の真相を解明すべく、かつて作曲の予言をした教授の霊力を頼りに思索を巡らせる。

橘外男

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一 家老屋敷

その不可解な死を遂げた判事の棚田晃一郎氏だけは子供の時分からよく知っています。私とは七つ八つくらいも年が違っていたかも知れませんから、学校や遊び友達が一緒だったというのではありませんが、棚田の家は広い田圃を距てて私の家とちょうど向合いになっていました。私の父はその頃この小さな町の農事試験場の技師をして、官舎に住んでいましたが、田圃を距てた埃っぽい昔の街道の向う側に城のように巍然たる石垣や土手をつらねているのが棚田の家だったのです。

もともと棚田の家は、この町の旧藩の城代家老の家柄といわれているだけに、手狭な私の家とは違って敷地も広ければ、屋敷もあたりを圧して宏壮を極め、昼でも暗い鬱蒼たる竹藪に沿うて石礫だらけの坂道を登って行くと、石垣を畳んだ大きな土手の上には黄楊の垣根が竹藪と並行に小一町ばかりも続いているのです。そして広々とした石段の向うに、どっしりした冠木門がそびえています。苔の生えた御影石の敷き石の両側に恰好のいいどうだんを植えて、式台のついた古風な武家づくりの玄関といい、横手に据えられた天水桶代りの青銅の鉢といい、見上げるような屋の棟や、その甍の上に蔽いかぶさった深い杉の森といい、昔裃を着けた御先祖が奥方や腰元や若党たちに見送られて供回り美々しく登城する姿なぞもそぞろに偲ばれましたが、それだけに腰元もいなければ供回り若党も一切なく、母親と女中と下男夫婦と、いつ行って見てもひっそりと静まり返っている小人数の棚田家というものは、何か大家の没落したような一種の侘しさを子供にも伝えずにはいませんでした。

しかも淋しい感じを与えたのは、何もそんな大きな屋敷や、古い石垣のせいばかりではありません。子供心にも何ともいえず薄気味悪かったのは、祖母からしょっちゅう聞かされた棚田の先祖の話だったのです。

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