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TORENDIA

藤村の個性

本文約6,700字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

藤村の文学と個性を論じる。衣食住のすみずみにまで及ぶ独自の凝り性と、他人の気を兼ねる遠慮深い性格が、藤村の個性の核心であると説く。少年期からの苦労が、自身の情熱と独自の世界を追求する努力に、他者を思いやり、あえて言い切らずに人物を同情的に描く叙情的な作風を深く結びつけたと分析し、その主要作品が持つ滋味と繰り返し読むべき価値を評価する。

和辻哲郎

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藤村は非常に個性の強い人で、自分の好みによる独自の世界というふうなものを、おのずから自分の周囲に作り上げていた。衣食住のすみずみまでもその独特な好みが行きわたっていたであろう。酒粕に漬けた茄子が好きだというので、冬のうちから、到来物の酒粕をめばりして、台所の片隅に貯えておき、茄子の出る夏を楽しみに待ち受ける、というような、こまかい神経のくばり方が、種々雑多な食物の上に及んでいたばかりでなく、着物や道具についてもそれぞれに細かい好みがあった。そうしてまたそういう好みを実に丹念に守り通していた。

住居についてもそうであった。新片町や飯倉片町の家は、借家であって、藤村の好みによった建築ではないが、しかしああいう場所の借家を選ぶということのなかに、十分に藤村の好みが現われているのである。随筆集の一つを『市井にありて』と名づけている藤村の気持ちのうちには、その好みが動いているように思われる。市井にある庶民の一人としての住居にふさわしい、ささやかな、目だたない、質素な家に住むことを、藤村は欲したのであろう。しかしそういう住居のなかには、市井庶民の好みに合うような、さまざまな凝った道具が並んでいなくてはならなかったであろう。あるとき藤村は、置き物を一つか二つに限った清楚な座敷をながめて、こうきれいに片づいていると、寒々とした感じがしますね、と言ったことがある。

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