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TORENDIA

鯨を釣る

本文約7,800字 ・ 読了時間 約16分

あらすじ(AIが作成しました)

宮城県の鮎川港で捕鯨の様子を見学した著者は、捕鯨船第二京丸に乗り込み金華山沖へ向かう。霧に覆われた海上で船団は鯨の群れを発見し、追跡を開始する。船長が砲を構え、海面に現れた巨鯨に銛を撃ち込む緊迫した瞬間が描かれる。銛が命中し、手負いとなった鯨との激しい攻防を経て、船員たちは見事に捕獲を成功させる。この経験を通じ、著者は鯨の巨大さと捕鯨という命がけの漁業の全容を体験し、その力強さに感銘を受ける。

佐藤垢石

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一

僕は、大概の大物釣には経験を持っている。大鯛、ブリ、石鯛、マグロ、鮫などの猛勇も、僕の手に掛っては何れも降参しているのだが、まだ鯨だけは退治したことがない。

釣に趣味を持つからには、いま地球上に生存する最も大きな動物を、釣って見たいと思うのだ。一番大きな動物は鯨だけれど、僕の腕が冴えていたところで、この鯨だけは釣るわけには参るまい、と、多年鯨捕りの熱望を持ちながら諦めて来たのである。

ところが最近、極洋捕鯨会社の秘書課長村田光敬氏から

「君、鯨捕りを見物に行かないか」

と、誘われた。

「頼む」

時節到来、僕は二つ返事で答えた。

上野駅をたったのが三日。四日の正午頃日本の東の果が太平洋へ突き出している宮城県の牡鹿半島の突端にある鮎川港へ着いた。鮎川の町へ入ると異様の臭気が鼻を衝く。家も、道も、川、庭も、すれちがう人間まで馬鹿に臭い。

「何だか、ひどく臭いですな」

「これが鮎川港の特徴なんで――鮎川は鯨で生活している町なんだから、あらゆるものに鯨の匂いがしみ込んでいる」

と、村田氏は平気でいる。

「鼻が曲りそうだ――」

僕は、とうとう悲鳴をあげた。

「馴れれば大したことはない」

村田氏は、僕の悲鳴などてんで問題にしないのだ。僕は、ある一軒の広い庭を覗いた。ところが、その庭一杯に鯨の肉、臓腑、骨などの細かく刻んだのを乾してある。それに天陽が当って腐って、陽炎が上って窒息しそうな異臭を放ったのだ。鮎川の町といえば海の清風そよそよと涼味たっぷりのところと想像して来たのだが――。

「鮎川の町民にとっては、この匂いは香水以上なんですよ」

「なるほど――鯨からとれる龍涎香は香水のもとだといいますからね」

それから、鮎川港に臨んだ極洋捕鯨会社の作業所へ案内してくれた。作業場へ小舟で近づくと、海の水は血色で真っ赤になっている。

作業場の桟橋に一頭の鯨が横づけになっている。作業場の浜窪主任が案内役に立って

「これは、今朝とった四頭のうちの一頭ですが、長さが四十七尺ある鰮鯨です」

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