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TORENDIA

曇つた秋

本文約1,300字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

十一月の風に吹かれる自らの姿や、暗闇で鳴く猫、君と共にある夜の静寂を綴る詩編。鮮明な記憶の断片と自身の生の意味、燃えゆく命の儚さを内省的に描き出す。中盤から後半にかけては、日常の風景の細部から永劫の時間や諦念への問いへと広がり、終盤には幼児との対話を通じて、終わりのない生の時間と夜の移ろいを静かに浮かび上がらせる。

中原中也

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🎧 曇つた秋 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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1

或る日君は僕を見て嗤ふだらう、

あんまり蒼い顔してゐるとて、

十一月の風に吹かれてゐる、無花果の葉かなんかのやうだ、

棄てられた犬のやうだとて。

まことにそれはそのやうであり、

犬よりもみじめであるかも知れぬのであり

僕自身時折はそのやうに思つて

僕自身悲しんだことかも知れない

それなのに君はまた思ひ出すだらう

僕のゐない時、僕のもう地上にゐない日に、

あいつあの時あの道のあの箇所で

蒼い顔して、無花果の葉のやうに風に吹かれて、――冷たい午後だつた――

しよんぼりとして、犬のやうに捨てられてゐたと。

2

猫が鳴いてゐた、みんなが寝静まると、

隣りの空地で、そこの暗がりで、

まことに緊密でゆつたりと細い声で、

ゆつたりと細い声で闇の中で鳴いてゐた。

あのやうにゆつたりと今宵一夜を

鳴いて明さうといふのであれば

さぞや緊密な心を抱いて

猫は生存してゐるのであらう……

あのやうに悲しげに憧れに充ちて

今宵ああして鳴いてゐるのであれば

なんだか私の生きてゐるといふことも

まんざら無意味ではなささうに思へる……

猫は空地の雑草の蔭で、

多分は石ころを足に感じ

その冷たさを足に感じ、

霧の降る夜を鳴いてゐた――

3

君のそのパイプの、

汚れ方だのげ方だの、

僕はいやほどよく知つてるが、

気味の悪い程鮮明に、僕はそいつを知つてるのだが……

今宵ランプはポトホト燻り、

君と僕との影は床に

或ひは壁にぼんやりと落ち、

遠い電車の音は聞こえる

君のそのパイプの、

汚れ方だのげ方だの、

僕は実によく知つてるが、

それが永劫の時間の中では、どういふことになるのかねえ?……

今宵私の命はかゞり

君と僕との命はかゞり、

僕等の命も煙草のやうに

どんどん燃えてゆくとしきや思へない

まことに印象の鮮明といふこと

我等の記憶、謂はば我々の命の足跡が

あんまりまざまざとしてゐるといふことは

いつたいどういふことなのであらうか

今宵ランプはポトホト燻り

君と僕との影は床に

或ひは壁にぼんやりと落ち、

遠い電車の音は聞える

どうにも方途がつかない時は

諦めることが男々しいことになる

ところで方途が絶対につかないと

思はれることは、まづ皆無

そこで命はポトホトかゞり

君と僕との命はかゞり

僕等の命も煙草のやうに

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