桔梗の別れ
本文約3,900字 ・ 読了時間 約8分
あらすじ(AIが作成しました)
高原の避暑地で親しくなった境笛子と母の杉江は、滞在を終えて帰路につく。同行した金津朔郎と酒巻深は、見送りのために乗換駅まで同伴する。駅の停車時間を利用して、二人は笛子のために桔梗を探しに谷底へと降りていく。競争するようにして花を探す二人を笛子と杉江は待つが、列車は二人が戻らぬまま発車する。金津が花束を手に駆けつけるが列車は既に去り、酒巻は姿を見せない。車内で笛子が見た川面に漂う桔梗の束に、物語は不穏な予兆を漂わせる。
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一
ある高原の避暑地。落葉松の森を背にしたテニスコートの傍ら。日が落ちて、橙色の雲の一塊が、雪をいたゞいた遠い峰を覆つてゐる。今テニスを終つたばかりの四人、そのうちの女二人は境笛子と母の杉江である。そして、二人の青年は、金津朔郎と酒巻深である。
酒巻 明日は敵を打ちませうね。笛子さん。 笛子 明日は組を変へるんだわ。 杉江 母さんと組まなくつちや駄目だよ。 金津 小母さんに睨まれてると、うつかりしたことはできないからなあ。 杉江 また雷が来さうね。昨夜はなんてひどかつたんでせう。 酒巻 でいよいよ、明後日お帰りですか。 杉江 ひとまづね。だつて、パパ一人を、あんまり淋しい目にあはせることできませんもの、ねえ笛子……。 笛子 パパが――こつちへいらつしやればいゝんだわ。 杉江 それがおできになれないんだから仕方がないさ。 酒巻 鎌倉にだつてコートはあるでせう。 笛子 どうせホテルなんだから、あつてよ。 杉江 あなた方もあつちへおいでなさいな。 金津 ひとつ、おやぢに談判してやらう。 酒巻 僕んとこは、お袋が海は嫌ひなんだから、駄目だ。
二
その避暑地を通つてゐる軽便鉄道の停車場。プラツトフオームのベンチ。