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TORENDIA

神戸

本文約7,100字 ・ 読了時間 約15分

あらすじ(AIが作成しました)

宝塚映画への出演を機に神戸を訪れた著者が、三宮から元町にかけての馴染みの店々を巡りながら、戦前から続く街の記憶や食の思い出を綴る。弘養館のビフテキやヴェルネクラブの料理、そして神仙閣をはじめとする安くて美味な中華料理など、かつて通った店の面影を辿る。戦争の困難を乗り越え、変わらぬ味や流儀を守り続ける店への愛着を軸に、神戸という街の食文化と過ぎ去った日々の情景を回想する。

古川緑波

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🎧 神戸 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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久しぶりで、神戸の町を歩いた。

此の六月半から七月にかけて、宝塚映画に出演したので、二十日以上も、宝塚の宿に滞在した。

撮影の無い日は、神戸へ、何回か行った。三の宮から、元町をブラつくのが、大好きな僕は、新に開けたセンター街を抜けることによって、又、たのしみが殖えた。

センター街は然し、元町に比べれば、ジャカジャカし過ぎる。いささか、さびれた元町であるが、僕は元町へ出ると、何だか、ホッとする。戦争前の、よき元町の、よきプロムナードを思い出す。

戦争前の神戸。よかったなあ。

何から話していいか、困った。

で、先ず、阪急三の宮駅を下りて、弘養館に休んで、ゆっくり始めよう。

三の宮二丁目の、弘養館。それは一体、何年の昔に、ここのビフテキを、はじめて食べたことであったろうか。子供の頃のことには違いないのだが。

弘養館という店は、神戸が本店で、横浜にも、大阪にも、古くから同名の店があった。

神戸の弘養館は、昔は、三の宮一丁目にあったのだが、今は二丁目。

今回、何年ぶりかで、弘養館へ入って、先ず、その店の構えが、今どきでなく、三四人宛の別室になっているのが、珍しかった。

昔のまんまの「演出」らしいのだ。と言っても、その昔は、もう僕の記憶にない程、遠いことなので、ハッキリは言えない。でも、いきなり、こんなことで商売になるのかな? と思う程、全く戦前的演出であった。

四人位のための一室に、連れの二人と僕の三人が席を取って、さて、「メニュウを」と言ったら、ボーイが、「うちは、メニュウは、ございません」

と、思い出した。此の店は、ビフテキと、ロブスターの二種しか料理は無かったんだ。昔のまんまだ。やっぱり。弘養館へ来て、メニュウをと言うのは野暮だった。

「ビフテキを貰おう」

スープも附くというから、それも。

先ず、スープが運ばれた。深い容器に入っている、ポタージュだ。ポタージュ・サンジェルマンと言うか、青豆のスープ。それが、まことに薄い。

ひどく薄いな。そして、無造作に、鶏肉のちぎって投げ込んだようなのが、浮身(此の際、浮かないが)だ。

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