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TORENDIA

宮本武蔵

本文約154,200字 ・ 読了時間 約309分

あらすじ(AIが作成しました)

細川忠利が仕える若侍たちの間で槍と太刀の優劣について議論が交わされる。忠利は重臣からの推挙を受けていた佐々木小次郎の召抱えを検討する中で、宮本武蔵の存在を思い起こし、両者を比べる。武蔵は諸国を修行の途にあり、かつて法典ヶ原で教えを説いた伊織という少年に父の遺品を返還し、去っていく。伊織は沢庵和尚によって、自身の出自と生き別れた姉の存在を明かされ、やがて武蔵は人々の前から姿を消す。

吉川英治

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衆口

一

学問は朝飯前に。昼間は、藩の時務を見たり、時には江戸城へ詰めたり、その間に、武芸の稽古は随時にやるとして――夜はおおかた若侍相手に、打ち寛いでいる忠利であった。

「どうだな、何か近頃、おもしろい話は聞かぬか」

忠利がこういい出す時は特にあらためて、無礼講とゆるされなくても、家臣たちは、

「されば、こういう事がございますが……」

と、いろいろな話題を持ち出すのをきっかけに、――礼儀こそ紊さないが――家長を囲む一家族のように、睦み合うのが例であった。

主従という段階があるので、忠利も、公務の場合は、峻厳な容態をくずさないが、晩飯の後など帷衣一重になって、宿直の者たちの世間ばなしでも聞こうとする時は、自分も寛ぎたいし、人をも寛がせたいのであった。

それに、忠利自身が、まだ多分に、一箇の若侍といったふうだから、彼らと膝を組んで、彼らのいいたいことを聞いているのが好きであった。好きばかりでなく、世情を知るうえには、むしろ、朝の経書よりも、活きた学問になった。

「岡谷」

「はあ」

「そちの槍は、だいぶ上達ったそうだな」

「上がりました」

「自分で申すやつがあるか」

「人がみな申すのに、自分だけ謙遜しているのは、かえって嘘をつくことになりますから」

「ははは。しぶとい自慢よの。――どれほどな腕なみになったか、いずれみてやるぞ」

「――で、はやく、御合戦の日が来ればよいと、祈っておりますが、なかなか参りませぬ」

「参らずに、仕合せであろう」

「若殿にはまだ、近頃のはやり歌を、ご存じありませぬな」

「なんという歌か」

「――鑓仕鑓仕は多けれど、岡谷五郎次は一の鑓」

「うそを申せ」

忠利が笑う。

一同も笑う。

「あれは――名古谷山三は一の鑓――という歌であろうが」

「ヤ。ご存じで」

「それくらい」

と、忠利は、もっと、下情の通をいってみせようとしたが、慎んだ。そして、

「――ここでは、平常の稽古に、槍を致しておる者と、太刀を致しておる者と、いずれが多くあるな?」

と訊ねた。

ちょうど、七名いたが、

「拙者は槍」

と、答えた者が、五人で、

「太刀」

といった者は、七名のうち、二人しかなかった。

で、忠利は重ねて、

「なぜ、槍を習うか」

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