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TORENDIA

上杉謙信

本文約127,200字 ・ 読了時間 約255分

あらすじ(AIが作成しました)

越後国の上杉謙信は、上州厩橋城にて関東管領上杉憲政の要請を受け、小田原の北条氏康に対抗する大策を練る。宿敵である甲斐の武田信玄との親睦の約定が結ばれるものの、信玄の遠謀や智慮に謙信は翻弄され、長陣による士気の維持に心を砕く。本作は、戦国の世において将軍家への忠義を貫き、時代の激流と対峙し続けた一人の武将の生き様を、敵対した英雄との宿命的な関係性や、個としての人間味ある姿を通して描き出す。

吉川英治

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生ける験あり

この正月を迎えて、謙信は、ことし三十三とはなった。

まだ弱冠といっていい。それなのに、服色も装身のすべても、ひどく地味好みであった。長袖の羽織も山繭織の鶯茶の無地ですましている。大口に似た袴だけが何やら特殊な織物らしい。またいつも好んで頭巾をかぶり、新春の装い綺羅やかな群臣のなかにあって、にこにこと無口に衆を見まわしている。――どう見ても臨済の若僧がひとりそこに交ざっているようであった。

「どうです、他愛ないものではありませんか。これですから、わが部下というものは、可愛くてなりません」

座を隣りあわせている右側の人へ、謙信はこう話しかけた。

関東管領の上杉憲政は、

「まったく」

と、うなずいて、更にまた、その右隣にいる貴人へ向って、

「越後衆の義勇に富むことや辛抱強さは、夙に、四隣に聞えていますが、かように無邪気で、多芸の士が多いとは、いや初めて知りましたな」

と、微笑を伝えた。

貴人というのは、この中に、ただひとりの都の公卿だった。熊野どの、熊野どのと仮称しているが、実は関白家の嫡、近衛前嗣なのである。――ことし永禄四年という天下大乱の中を、いかに正月とはいえ、こうした荒武者ばかりの席に平然と臨んでともに酒を酌み、ともに歓を尽しているこの公卿も、いわゆる花鳥風月だけしか解さない堂上の人とはすこし類を異にしているようである。またそれには、こういう武人の一群に対して、何らか求める大志を抱いているものということもほぼ想像がつく。

しかもここは、上州厩橋の城内である。京都からいえば、まだ多分に地方的野性のみを想像されやすい坂東平野の一角である。すくなくも当時の貴顕がこんなところまで旅するには、よほどな覚悟と目的がなければできなかった。

初春なれや 明けたり

おもしろの世や 今日なれ

生れあはせつるものかな

よくこそ今に。

国々こぞり立ち 国々たゝかふ

よべの夜雲と 消ゆあり

暁の出づ日と 燃ゆあり

神代を今と。

いまなれや ものゝふ

生きてこそ 人みな

またとはなき 生がひかな

草の根も喰め。

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