三国志
本文約147,700字 ・ 読了時間 約296分
あらすじ(AIが作成しました)
中牟県の関所に捕らえられた曹操は、道尉陳宮の協力を得て脱出する。二人は董卓打倒の志を抱き、故郷へ戻り義兵を募ることを決意する。一方、洛陽では王允が呂布を招いて計略を巡らせ、朝廷内では李と郭の両将が帝の所在を巡って激しく角逐する。楊彪が戦火の調停を図る中、混乱する漢室の行方を背景に、英傑たちが天下の覇権を争い、それぞれの野望と義憤を抱えて乱世を駆け抜けていく姿を描く。
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偽忠狼心
一
曹操を搦めよ。
布令は、州郡諸地方へ飛んだ。
その迅速を競って。
一方――
洛陽の都をあとに、黄馬に鞭をつづけ、日夜をわかたず、南へ南へと風の如く逃げてきた曹操は、早くも中牟県(河南省中牟・開封―鄭州の中間)――の附近までかかっていた。
「待てっ」
「馬をおりろ」
関門へかかるや否や、彼は関所の守備兵に引きずりおろされた。
「先に中央から、曹操という者を見かけ次第召捕れと、指令があった。そのほうの風采と、容貌とは人相書にはなはだ似ておる」
関の吏事は、そういって曹操が何と云いのがれようとしても、耳を貸さなかった。
「とにかく、役所へ引ッ立てろ」
兵は鉄桶の如く、曹操を取り囲んで、吟味所へ拉してしまった。
関門兵の隊長、道尉陳宮は、部下が引っ立ててくる者を見ると、
「あっ、曹操だ! 吟味にも及ばん」と、一見して云いきった。
そして部下の兵をねぎらって彼がいうには、
「自分は先年まで、洛陽に吏事をしておったから、曹操の顔も見覚えている。――幸いにも生擒ったこの者を都へ差立てれば、自分は万戸侯という大身に出世しよう。お前たちにも恩賞を頒ってくれるぞ。前祝いに、今夜は大いに飲め」
そこで、曹操の身はたちまち、かねて備えてある鉄の檻車にほうりこまれ、明日にも洛陽へ護送して行くばかりとなし、守備の兵や吏事たちは、大いに酒を飲んで祝った。
日暮れになると、酒宴もやみ、吏事も兵も関門を閉じて何処へか散ってしまった。曹操はもはや、観念の眼を閉じているもののように、檻車の中によりかかって、真暗な山谷の声や夜空の風を黙然と聴いていた。
すると、夜半に近い頃、
「曹操、曹操」
誰か、檻車に近づいてきて、低声に呼ぶ者があった。
眼をひらいて見ると、昼間、自分をひと目で観破った関門兵の隊長なので、曹操は、
「何用か」
嘯く如く答えると、
「おん身は都にあって、董相国にも愛され、重く用いられていたと聞いていたが、何故に、こんな羽目になったのか」
「くだらぬことを問うもの哉。燕雀なんぞ鴻鵠の志を知らんやだ。――貴様はもうおれの身を生擒っているんじゃないか。四の五のいわずと都へ護送して、早く恩賞にあずかれ」