私本太平記
本文約124,800字 ・ 読了時間 約250分
あらすじ(AIが作成しました)
古市に出屋敷を構える日野俊基は、六波羅の捕吏に包囲され、浪人や散所民と権力側の衝突に巻き込まれる。一方、楠木正成は変革の時を察知し、近親との別れを告げる。時を同じくして、京では後醍醐天皇による倒幕の秘勅が発せられ、大軍の接近が噂される中、阿新丸らも騒乱の渦中へ足を踏み入れる。混迷を極める時代のうねりの中で、武士や民、公卿たちがそれぞれの運命と対峙し、新しい歴史が幕を開けようとする様子を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
石の降る夜
古市の朝は、舟の櫓音やら車の音で明けはじめる。
ほどなく、散所民のわめき声だの、赤子の泣き声。そして、市の騒音も陽と共に高くなり、やがて型どおりな毎日の生態と砂塵が附近一帯をたち籠めてくる。
「まだ帰らぬの」
「……帰りませんなあ」
出屋敷の板かべの一間から、日野俊基は、外ばかり見ていた。――夜来、侍いていた石川ノ豊麻呂も、まんじりもしなかった瞼である。
「たかの知れた放免一人、あの二人が、討ち損じるはずはないと思われますが」
豊麻呂には、自責もあった。
俊基の身をここへ隠し、つき纒う八荒坊は、高野街道へおびき出して、頼春と菊王の手で打ち果させるという計は、そもそも、自分が妙策と信じていい出したことなのだ。
「ご窮屈でも、弁ノ殿には、しばし、ここにてお待ち下さいませぬか」
「お身はどこへ?」
「万一のため、部下に命じて、高野街道を中心に、手分けさせておりますが、それらの者も、なぜか、まだ一人とて立ち帰って来ません。自身、石川まで行って、吉左右のほど、確かめてまいりまする」
豊麻呂は出て行った。
いや、そんな悠長さではなく、飛ぶがごとく駈けてゆく背は、いかにも自責のつよい若者の純情ぶりを思わせる。
ところが。――その豊麻呂もなかなか戻って来なかった。すでに午すぎ。やっと帰っては来たが、その姿は、朝にもまして疲労と埃にまみれていた。
「どうした? 豊麻呂」
「なんとも、解せぬことになりました。八荒坊が討たれたらしい形跡もなく、頼春と菊王の安否の程もわかりません」
「さては、不首尾か」
「が、部下どもの探りによれば、天見の辺では、八荒坊にもあらぬ偽山伏の放免の死骸が、幾つか見られ、そのどれもが、みな矢キズを負っていたと申しまする」
「はての。二人は、弓は持たなかったはず。さらには、同類の偽山伏が、ほかにも大勢いたとすれば、何ぞの手違いが、起ったものに相違ない」
「されば、放免どもはいつか、弁ノ殿がここにお潜みのことまで偵知したらしく、日頃から居る地元の諜者もみな挙げて、ここの出屋敷のぐるりを見張っておりまする」
「なに、ここをも?」
俊基は、愕とした。