雲雀も啼かぬ日
一
河が吼えるように河の底から、船頭の大きな声が、
「――船止めだとようっ」
「六刻かぎりで、川筋も陸も往来止めだぞうっ」
船から船へ、呶鳴り交わしてから触れ合っていた。
下総の松戸の宿場。
雪はやっと、降りやんではいたが――
きのうからの大雪は、この地方にまでわたっていた。三月の桃の節句だ。雲雀は死んだように黙ってしまい、菜の花も青い麦も雪の下だった。万延元年のこの日は、江戸表だけの天変地異ではなかったのである。
醤油船の権十は、
「お松、何をいつまで、愚図愚図してるだ。まだ燃え付かねえのか」
煙に顔を顰めながら、岸へ繋綱を取っていた。
権十の娘は、まだ十五、六の小娘だった。
「だって、父っさま、薪が濡れているで、いくら燃やしても、燃えやしねえだもの」
煤りかけている七輪へ顔を寄せて、眼を紅く爛らせながら艫の方からいう。
すると隣の干鰯船から、仲間の八が、苫を剥くって、
「――権十、飯の支度か」と顔を出した。
「そうよ、これからだ。嬶あに死なれてからというもの、お松の奴アまだからっきし子供だしよ、美味え飯なんぞ喰ったこたあねえ」
「そういっちゃあ、お松ッ子が可哀そうだぜ、十五にしちゃよく働く方だ。なア、お松ちゃん」
八は、着物をかえていた。そして岸へ上がって行きながら、
「おらあ、町へ行って、一ぺい飲るつもりだが、どうだい権十、つきあわねえか」と、誘った。
「さあ? ……」
権十は、生返辞だった。父娘が二人きりの船世帯なので、十五の小娘を一人残して行くには忍びないらしいのである。
八は、陸から、
「なあ、お松ッ子。帰りにゃ簪を買って来てやらあ。いい子だから、お飯が炊けたら、一人で喰べて、先に寝ていな、いいだろ」
「ああいいよ」
お松は、岸を仰いで笑った。船頭の娘なので、河っ童のように髪の毛は赤いし、色は黒いが、眼元がぱっちりしていて、研けば今に、潮来でお職が張れるなどとよく揶揄われたりするほど、どことなくそんな素質の小娘だった。
二
この地方ばかりでなく、諸国とも、今日から一切「鳴物停止」のお布令だった。