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TORENDIA

眠い一日

本文約17,600字 ・ 読了時間 約36分

あらすじ(AIが作成しました)

夜と昼が逆転する睡眠障害に悩む主人公は、自らの生活を題材にした小説を執筆する。その後、海辺の町で親戚や友人との交流に時間を過ごすが、日中の耐えがたい睡魔に襲われ、周囲との対話の間も意識が途切れては目覚めるという空虚な日々を繰り返す。本作は、慢性的な疲労感と神経衰弱に沈みながら、生の実感から遠ざかり、ただ無為に時間が過ぎるのを待つ青年の閉塞的な日常を淡々と描き出している。

牧野信一

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一

「電灯を点けて煙草を喫かす、喫ひ終ると再び灯りを消してスツポリと夜着を頭から引き被る――真暗だ。彼は、眼を視開いてゐた。……云ふまでもなく、何も考へてゐない。眠り度い! と希ふ心は、とうに麻痺してゐる。……時計の音ばかりが、イヤに勢急に響いて来る、――一寸快よいやうな気もする。――間もなく彼は、また慌てゝ灯りを点ける……。一種特別な疲れを覚えて、また指の先が煙草へ触れる……」

「眠い一日」といふ小説の冒頭に、彼は斯う書いた。まだ続く。――「全く同じ動作を何辺か繰返してゐるうちに、雨戸の隙間から蒼白い明りが滲み込むだのに気付くと、彼はホツとして、その勢ひで起きあがる。さうして、努めて静かに一枚だけ雨戸をあける。――外気は未だ夜と明方との間を彷徨して、煙つてゐる。彼は、えがらつぽい唾気を庭先へ吐き飛ばすと、再び寝床へもぐつて、両眼をパツチリと視張つた儘、障子の明るいところを眺めてゐる。其処は、水底のやうにぼんやりと明るいだけで硝子越には何も見えない。――そのうちに、恰度この明方の静かな曙光に似た軽い疲労が何処からともなく湧き出して、つい彼が気附かぬ間に眠りがやんわりと愚かな意識を覆つて了ふ……これで彼は、他合もなくぐつすりと眠つて、午過ぎになつて漸く目を醒ます。だから彼が、夜眠れないのは当然なのだつた。」

「君の、「眠い一日」ツてやつ読んだよ。」鶴村は、斯う云つたぎり容易に次の言葉を続けやうとしなかつた。彼は、直ぐに鶴村の沈黙のうちに軽蔑の意が含まれてゐるのを悟つた。「相変らず、とでも云ひたいやうなものだね。」鶴村は、電灯の球に煙草の煙を吹きかけてゐた。

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