眼鏡
本文約7,400字 ・ 読了時間 約15分
あらすじ(AIが作成しました)
貝殻や蛾などの美しいものに心を寄せる正吉は、義雄が理科の解剖のためにかたつむりを捕らえる姿に胸を痛める。後日、学校で友人たちと拾った子すずめをめぐり、解剖を目的とする上級生らと衝突した正吉たちは、その騒ぎの中で眼鏡を破損させてしまう。弁償を求めて上級生の家を訪れた正吉らは、そこで彼らの置かれた苦しい境遇と、対照的な大人たちの態度を目の当たりにし、子供たちの純粋な世界と大人たちの社会の狭間で複雑な思いを抱く。
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一
かず子さんが、見せてくれた紅い貝は、なんという美しい色をしていたでしょう。また、紫ばんだ青い貝も、海の色が、そのまま染まったような、めったに見たことのないものでありました。
「ねえやが、お嫁にいくので、お家へ帰ったのよ。そして、私に送ってくれたのよ。図画の先生が、ほしいとおっしゃったから、私いくつもあげたわ。」と、かず子さんが、いいました。正吉は自分もほしいと思ったけれど、おくれと口に出してはいいませんでした。かえって、反対に、
「なあんだい、もっと、もっと、きれいなものをかず子ちゃんは、知っていないだろう?」と、いったのです。かず子さんは、ぼんやりと、正吉の顔をながめて、
「もっときれいなものって、貝? 石? 正ちゃんは、持っているの。」と、ききました。
「持っていないけど、あるよ。」
「ありゃしないわ。」
「あるから。」
「じゃ、見せてよ。」と、かず子さんは、いいました。
正吉は、ただ、なんでも悪口をいってみたかったのです。なぜなら、自分の家にいた女中のしげは、お嫁の話どころでなく、いつも欲深げな父親がたずねてきては、外へ呼び出して、おしげが働いてもらったお金を、みんな取り上げていってしまった末に、無理におしげをよそへやってしまったのでした。それを考えると、だれにもいうことなく、腹が立つのであります。
「悪口をいうから、正ちゃんにはあげないわ。」
「いるもんか、かず子ちゃんは、もっと、もっと、きれいなものがあるのを知らないだろう。」
このとき、正吉は、ほんとうにきれいなものがあるのを思い出したのでした。それで、ほくほくしていると、
「ああわかった、正ちゃん、お花でしょう?」
「花なもんか。」
「正ちゃんの知っているもの?」
「うん、そうだよ。」
「ありゃしないわ。」
かず子ちゃんは、勝ち誇ったように、片足を上げて、トン、トンと跳ねました。
「じゃ、きてごらんよ。」
正吉は先に立って、くさむらの中へ入りました。木にからんだ、からすうりの葉に止まっている、うす赤い蛾を捕らえました。
「ほら、かず子ちゃんの貝より、もっときれいだろう。」