百合の花
本文約4,200字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
村の腕白児である太郎は、友達の勇が大切にしている独楽を約束を破って割ってしまい、恐怖から桑畑へ逃げ込む。そこで出会った花ちゃんと共に野中の不思議な清水を覗き込むと、水面に美しい光景や音楽が現れる。二人はその神秘に吸い寄せられるように水の中へと沈んでいく。翌日、栗の樹の下の清水は消え、その跡には二本の美しい百合の花が咲き乱れていた。子供たちの無邪気さと幻想的な情景を描く物語である。
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太郎の一番怖がっているのは、向うの萩原のお婆さんで、太郎は今年八歳になります。この村中での一番の腕白児で、同じ年輩の友達の餓鬼大将であります。萩原の勇というのが友達の中で一番弱いから弱虫弱虫と言って、よく泣かせて帰します。するとすぐにお婆さんが、目球を光らかして、しょうつかの鬼婆のようにぼうぼうと髪の乱れた胡麻塩頭を振りたてて、
「これ太郎! どこにいる。お前はまた家の勇を泣かせましたねえ、太郎、さあ私がお前さんをいじめて上げるから、お出でなさい」と息せいてやって来ます。太郎は冷汗を流しているとお婆さんは太郎の頬辺をつねったり[#「つねったり」は底本では「つめったり」]、太郎の襟元を捕えて引き摺るのであります。だから、太郎は勇が泣いて帰ればすぐ逃げて姿を隠すのが常であります。
ある日太郎は独楽を持って、夏の炎天に遊びに出ました。太郎の独楽は鉄の厚味が二分もあって、心棒は太くて、大きな独楽でありましたから、独楽合戦をしましても、小さな木独楽はぽんぽん刎ね飛ばされて、真二つにも、三つにも割られてしまうのです。それで太郎はいつも独楽合戦の時には一番の大将で、太郎と戦うのをみんな恐れていました。
今日は、往来へ出て見ましても、あたりに友達の影が見えないので、ひとりで独楽を持ったまま、友達欲しそうに歩いていますと、頭の上には銀蜻蛉が飛んでいます。
そうするとむこうの圃で「ぎん来う――ぎん来う――。」と呼ぶ声が聞えました。まさしく勇の声であったから、太郎は心のうちで大いに喜んで、早速勇の傍へ行って、いつになく優しい声で、「勇さん、独楽を廻さないか。」と言いました。勇は、また廻せば割られてしまうから、黙ったまんまで首を振るのです。それでも太郎は、どうかして勇を誘い出そうと、肩に手を掛けて、
「僕が今度ぎんを捕ったら上げるから、今日は独楽を廻しましょう。」と云いました。
勇は、[#「勇は、」はママ]
「ほんとうにお呉れか。」
「それはきっと上げるさ。」
「いつ呉れるのだい。」
「明日。」
「何時に。」
「朝上げるよ。」
「でも、また独楽割られるから厭だ……。」