妻の秘密筥
本文約12,200字 ・ 読了時間 約25分
あらすじ(AIが作成しました)
会社で同僚の五人は、それぞれ個性的な余技を持つ天狗の会を結成している。絵画に没頭する木寺、謡曲を嗜む海野、登山を愛する但馬、辛辣な批評を繰り返す広瀬、そして探偵小説に傾倒する語り手は、時に衝突しながらも関係を保っている。ある日、広瀬が懺悔と称して恋愛話を披露し、秘密筥にまつわる騒動を引き起こす。語り手はその影響で妻が隠し持つ箱の存在を疑い、問い詰めるが、中には思いがけない過去の記念品が収められている。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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才人五人組
「君達の群は一寸違っているね」
目のあるものは皆そう言って、敬意を表してくれる。
「一癖あるのが揃っている」
と課長が言ったそうだ。僕達も十把一からげの連中とは選を異にしている積りだ。同僚の多くは、寄ると触ると、Xの次の話をする。俸給の上らない不平をこぼす。他に能がない。そういうのに較べると、僕達は大いに違う。課長の言う通り、皆一癖も二癖もある。人数は五人だが、粒が揃っている。早分りのするようにこゝで閲歴を紹介して置こう。
自分のことから先に話すものでない。第一指は二科に二度入選した素人洋画家木寺君に屈すべきだろう。この男は○○伯爵の甥で、奥さんを◎◎子爵家から貰っている。八重さんといって、頗る美人だ。但し木寺君よりも二つ三つ年が多い。或富豪の放蕩息子のところへ嫁に行って離婚になったのを、慰藉料諸共、拝領したのだという噂がある。
「いや、その拝領した人が死んだものだから、木寺君にお鉢が廻って来たんだ。美人には美人だけれど、歴史がついている」
という評判だ。艶福家は兎角羨まれる。慰藉料ぐるみなら、艶福と同時に実利も占めている。美人の奥さんに対して、木寺君は寧ろ醜男だから、話題になり易い。会社の方の成績も見るべきものがない。奥さんと油絵で光っている。
「木寺君の絵は童心が豊かで荒削りだから、僕達には分らないが、兎に角追々玄人離れがして来るようだ」
と仲間の広瀬君が言った。この男は物を貶す名人だ。童心が豊かで荒削りとは正に稚拙の意味である。
次は僕だけれど、謙遜の為めに譲って、海野君を推す。海野君は謡曲を余技とする。学生時代に謡曲の師匠の家の一間を借りていたのが切っかけになって、学業よりも謡曲に身を入れた。質も好かったのだろう。十数年本格的に鍛えているから、普通のモー/\連中とは違う。昨今は同僚の有志を指導している。決して出教授をしないという見識の高い先生だ。但し重役のところ丈けは仕方がないらしい。匿していても、重役の方で遠慮なしに喋るから分る。
「海野君は素晴らしいものだよ。会社をやめて師匠を専門にやった方が宜いかも知れない」
と褒めていた。