銭形平次捕物控
本文約13,500字 ・ 読了時間 約28分
あらすじ(AIが作成しました)
江戸の御用聞である銭形の平次は、秋の日に子分の八五郎と縁側で碁を打つ。そこへ、武家の娘・お秀が訪れ、父である用人の相沢半之丞が重要な書面を紛失し切腹を考えていると助けを求める。旗本・大場家の家宝である御墨付が何者かに奪われた事件に対し、平次は独自の推理で真相を追う。乗馬を苦手とする半之丞が落馬した隙に何者が文箱をすり替えたのか、鋭い洞察力で事件の全貌と犯人を明らかにしていく。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
「おっと、待った」
「親分、そいつはいけねえ、先刻――待ったなしで行こうぜ――と言ったのは、親分の方じゃありませんか」
「言ったよ、待ったなしと言ったに相違ないが、そこを切られちゃ、この大石がみんな死ぬじゃないか。親分子分の間柄だ、そんな因業なことを言わずに、ちょいとこの石を待ってくれ」
「驚いたなア、どうも。捕物にかけちゃ、江戸開府以来の名人と言われた親分だが、碁を打たしちゃ、からだらしがないぜ」
御用聞の銭形の平次は、子分のガラッ八こと八五郎を相手に、秋の陽ざしの淡い縁側、軒の糸瓜の、怪奇な影法師が揺れる下で、縁台碁を打っておりました。
四世本因坊の名人道策が、日本の囲碁を黄金時代に導き、町方にももっぱら碁が行われた頃、ちょうど今日の麻雀などのように一時は流行を極めた時分です。
もっとも、平次とガラッ八の碁はほんの真似事で、碁盤といっても菓子折の底へ足を付けたほどのもの、それにカキ餅のような心細い石ですから、一石を下すごとに、ポコリポコリと、間の抜けた音がするという代物、気のいい女房のお静も、小半日この音を聞かされて、縫物をしながら、すっかり気を腐らしております。
「だらしがないは口が過ぎるぞ、ガラッ八奴、手前などは、だらしのあるのは碁だけだろう」
平次も少しムッとしました。
「それじゃ、この石を待ってやる代り、何か賭けましょう」
「馬鹿ッ、汚い事を言うな、俺は賭事は大嫌いだ」
「金でなきゃアいいでしょう、竹箆とか、餅菓子とか――」
「よしッ、それほど言うなら、この一番に負けたら、今日一日、お前が親分で俺が子分だ。どんな事を言い付けられても、文句を言わないという事にしたらどうだ」
「そいつは面白いや、あっしが負けたら、打つなり蹴飛ばすなり、どうともしておくんなさい。どうせ親分なんかに負けっこがないんだから」
「言ったね、さア来い」
二人はまた怪しげな碁器の中の石をガチャガチャいわせて、果し合い眼で対しました。
「まア、お前さん、そんな約束をなすって」
お静は見兼ねて声を掛けましたが、
「放っておけ、この野郎、一度うんと取っ締めなきゃア癖になる」