日の出
本文約10,600字 ・ 読了時間 約22分
あらすじ(AIが作成しました)
新聞記者の兒玉進五は、東京の倶楽部でエリートたちに対し、自身の出身校である故郷の私立大島小学校への誇りを語る。かつて放蕩の末に絶望した池上権藏を救い、日々の勤労という教訓を授けた大島老人の教育と、その精神を継承して成功を収めた権藏の生き様を披露する。この体験を通じ、兒玉は同窓の判事や会社員と共に母校を支え続け、形式的な教育を排し、自らの精神を体現する真の詩人が母校から現れる日を待つ。
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某法學士洋行の送別會が芝山内の紅葉館に開かれ、會の散じたのは夜の八時頃でもあらうか。其崩が七八名、京橋區彌左衞門町の同好倶樂部に落合つたことがある。
小介川文學士が伴ふて來た一人の男を除いては皆な此倶樂部の會員で、其の一人はオックスホード大學の出身、其一人はハーバード大學の出身など、皆なそれ/″\の肩書を持て居る年少氣鋭、前途有望といふ連中ばかり。卓を圍んでてんでに吐き出す氣焔の猛烈なるは言ふまでもないことで、政論あり、人物評あり、經濟策あり、時に神學の議論まで現はれて一しきりはシガーの煙を々濛々たる中に六七の人面が隱見出沒して、甲走つた肉聲の幾種が一高一低、縱横に入り亂れ、これに伴ふ音樂はドスンと卓を打つ音、ゴト/\と床を蹶る音、そして折り/\冬の街を吹き荒す北風の窓ガラスを掠める響である。時々使童が出入して淡泊の食品、勁烈の飮料を持運んで居た。ストーブは熾に燃えて居る――
『貴殿は何處の御出身ですか』と突然高等商業出身の某、今は或會社に出て重役の覺目出度き一人の男が小介川文學士の隣に坐つて居る新來の客に問ひかけた。勝手な氣焔もやゝ吐き疲ぶれた頃で、蓋し話頭を轉じて少し舌の爛れを癒さうといふ積りらしい。人々も同意と見えて一時に口を閉たけれど、其中の二三人は別に此問に氣を止めず、ソフアに身を埋めてダラリと手を兩脇に垂れ、天井を眺めて眼を細くして居る者もあれば、シガーをパク/\ふかして居る者もある。一人は毒瓦斯を拔くべく起つて窓を少し開けた。餘の人々は新來の客に目を注いだ。
『僕ですか、僕は』と言ひ澱んだ男は年の頃二十七八、面長な顏は淺黒く、鼻下に濃き八字髭あり、人々の洋服なるに引違へて羽織袴といふ衣裝、今は都下で最も有力なる某新聞の經濟部主任記者たり、次の總選擧には某黨より推れて議員候補者たるべき人物、兒玉進五とて小介川文學士は既に人々に紹介したのである。
兒玉は先程來、多く口を開かず、微笑して人々の氣焔を聽て居たが、今突然出身の學校を問はれたので、一寸口を開き得なかつたのである。
『僕の出た學校をお尋ねになるのですか。』と兒玉は語を續うとして、更に斯う問ふた。