身代りの花嫁
本文約10,600字 ・ 読了時間 約22分
あらすじ(AIが作成しました)
東京駅で新婚の詩子と良一を待つ人々の前に、二人の乗る自動車が衝突したとの知らせが届く。詩子は無事だったが、口紅に猛毒が仕込まれるなど不可解な事件が続く。後見人の関谷文三郎は、犯行を求婚者だった氏家の仕業に見せかけようと画策する。しかし、良一の妹・勇美子は精巧な人形を用いた巧妙な罠で関谷を油断させ、密かに犯行の決定的瞬間を写真に収める。こうして勇美子の機転により、詩子の財産を狙った関谷の卑劣な陰謀が暴かれる。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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花嫁の自動車が衝突した
「花嫁の自動車は?」
「まだ来ない、どうしたのだろう、急行の発車まで、五分しかないじゃないか」
「迎えに行って見ましょうか」
東京駅の待合室に集った人達は次第に募る不安に、入口からまっ暗な外を眺めたり、売店や三等待合室を覗いたりしました。
「歩廊に居るんじゃありませんか」
「もう乗り込んだのかも知れませんね」
そんな事を言いながら改札口へ行った人達は、急行はたってしまって、狐につままれたように、歩廊から降りて来る別の一隊と顔を合わせたのでした。
「新婚の夫婦は汽車へは乗りませんよ」
「新橋からたったんじゃありませんか」
「そんな筈はない。親許の関谷さんや、媒酌の方もこの駅に見えた位だから」
「それにしてはおかしいぜ」
こんな評議のまっ最中、乗車口に高級車を乗りつけて、その中から十三、四の可愛らしい少女が疾風のように飛んで来ました。
「あッ、勇美子さん、どうなすったの?」
花嫁の後見人で親許になって居る関谷文三郎夫人が訊きました。
「詩子姉さんが」
「詩子さんがどうした」
関谷文三郎は人波を掻きわけて来ました。中年者の勤人らしい堅実な男、巨万の富を遺された富める孤児の詩子を、四、五年この方自分の娘のように世話をして来た人物です。
「お兄様達の乗った自動車に、円タクが衝突したんです」
「えッ」
「怪我はないですか」
大勢の人が小さい勇美子を取囲んで、質問の雨を浴びせかけました。
「詩子お姉様が」
勇美子は漸く息をつぎます。
「それは大変ッ」
「大したことはないんです、けれど、運転手は大怪我で、助からないかも知れないんですって」
「すぐ引返そう」
関谷夫妻と親しい友人達は、すぐ渋谷の春藤家へ車を走らせました。道々、勇美子の説明するのを聴くと、――花婿春藤良一と花嫁の詩子を乗せた自動車が、渋谷の春藤家を出ると間もなく、暗い路地の中から、待ち構えて居たように一台のボロ円タクが飛出して、花嫁の詩子の乗って居る側へ、全速力で叩き付けたのでした。
「詩子お姉様は横っ倒しになって、ガラスのかけらを浴びましたが、お兄様が庇ったので、手と足へほんの少しの傷をうけただけで済みましたワ」
「それから」