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TORENDIA

託児所をつくれ

本文約16,500字 ・ 読了時間 約33分

あらすじ(AIが作成しました)

女詩人・吉田りん子の出現により、周囲の詩人たちの恋愛模様や思想的転向が翻弄される。やがて共同生活を送る詩人たちの間で、育児や家事、恋愛関係を巡る衝突が繰り返される。子連れの尾山清之助や大西三津三らと生活を共にするなか、大西は働く母親のための託児所の必要性を痛感して銀座で浄財を集める。りん子との対立を経て彼女が去った後、それぞれの登場人物は散り散りになり、葛藤を抱えながら独自の人生を歩んでいく。

小熊秀雄

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一

この長詩を書くための材料に

本棚を熱心にかきまはしたが

探す本は発見らない

黒表紙で五十頁余りの

吉田りん子といふ詩人の

『酒場の窓』といふ詩集だ、

捨て難いものがあつて

時々本棚の整理で本を売り飛ばす時も

傍に除けてをくのだから

何処かにまぎれ込んでゐるに相違ない

私は彼女を『奇蹟の女王』と名づけてゐる。

二

彼女が突然詩人のグループに現はれると

詩人達が彼女の周囲に集つた。

布切れの真中をつまみあげると

布の周囲が寄つてくるやうに――、

詩人は女好きだとは頭から決められない

詩人は女に対しては相当選り好みがやかましいのだ、

一個所欠点があると

その一個所を蛇蝎のやうに憎む詩人やら、

他人が欠点と見るところも

勝手に美化し合理化し拝み奉る詩人もある。

三

――何てすばらしい縮れ毛だ

彼女の髪をみてゐると

荒れ果てた庭を見るやうだ、

何となく寂寥と哀愁が湧いてくる。

さういふ理由で縮れ毛の女も愛される、

――僕は、彼女を直感的に好きになつたよ、

皮膚の色が普通の状態ぢやないね、

あくまで白く、透明だ、

陶器の白さではない、

玻璃器の白さだね

つまり肺の悪い女の美しさが

僕の心を一番捉へるよ、

こゝでは肺の悪い女性も歓迎される、

四

――私の異常な美を発見する女といふのは

妊娠三四ケ月目の女だ

彼女の細胞が新しく変つてゆく感じだ、

皮膚の色の美しさ、

喘いでゐる呼吸が

女を感情的に見せる。

詩人は電車の中で

異常な美しさの女をみつけた

女の顔に注いだ視線を

胸元から腹部に落す

彼女の帯は蕗のトウを抱へてゐるやうに

ふつくらとふくれてゐた

妊娠も詩人にとつては美しい。

五

ところで女詩人吉田りん子は

どの種類の美しさの所有者であつたか

特別これといつて変哲もない

小柄な体、脚を活発にはこぶ女

小さな頭、黒い顔、二十二歳にしては

落着いたもの言ひ、

小説家の林芙美子を近代的にして

彼女から卑俗さをぬきとつた、

脱脂乳のやうな淡白な甘みをもつた女、

適宜に男に向つて性慾的な

容子をすることも知つてゐる。

六

すぱりと男のやうな決定的なもの言ひ

それで何の悪意も感じられない、

男に対してはいつも批判的態度を失はぬ

彼女はこれが唯一の武器だ

女に負けることを

楽しみにしてゐる男にとつては

彼女は女将軍で

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