双生児
本文約12,000字 ・ 読了時間 約24分
あらすじ(AIが作成しました)
死刑囚である男は、刑の執行を前に獄中の面会人へ自らの罪を打ち明ける。彼には顔から形まで瓜二つの双子の兄がいた。財産や地位への妬みと、同じ外見を持つ肉親への憎悪から、男は兄を絞殺して古井戸へ遺棄する。その後、兄になりすまして生活を送るが、指紋の照合による取り違えという手抜りから逮捕される。死を目前に控え、鏡や水面に映る兄の幻影に苦しむ男は、この告白によって妻に真実を伝え、自身の心の平安を求めて死刑台へ向かう。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
先生、今日こそは御話することに決心しました。私の死刑の日も段々近づいて来ます。早く心にあることを喋って了って、せめて死ぬ迄の数日を安らかに送り度いと思います。どうか、御迷惑でしょうけれど、暫らくこの哀れな死刑囚の為に時間を御割き下さい。
先生も御承知の様に、私は一人の男を殺して、その男の金庫から三万円の金を盗んだ廉によって死刑の宣告を受けたのです。誰もそれ以上に私を疑うものはありません。私は事実、それ丈けの罪を犯しているのではありますし、死刑と極って了った今更ら、もう一つのもっと重大な犯罪について、態々白状する必要は少しもないのです。仮令それが知られているものよりも幾層倍重い大罪であったところで、極刑を宣告せられている私に、それ以上の刑罰の方法がある訳もないのですから。
いや必要がないばかりではありません。仮令死んで行く身にも、出来る丈け悪名を少くしたいという、虚栄心に似たものがあります。それにこればかりはどんなことがあっても、私は妻に知らせ度くない理由があるのです。その為に私はどれ程要らぬ苦労をしたことでしょう。その事丈けを隠して置いたとて、どうせ死刑は免れぬと判っていますのに、法廷の厳しい御検べにも、私は口まで出かかったのを圧えつける様にして、それ丈けは白状しませんでした。
ところが、私は今、それを先生のお口から私の妻に詳敷く御伝えが願い度いと思っているのです。どんな悪人でも、死期が近づくと善人に帰るのかも知れません。そのもう一つの罪を白状しないで死んで了っては、余りに私の妻が可哀相に思えるのです。それともう一つは、私は私に殺された男の執念が恐ろしくてたまらないのです。いいえ、金を盗む時に殺した男ではありません。それはもう白状して了ったことですし、大して気がかりになりませんが、私はそれよりも以前に、もう一人殺人罪を犯していたのです。そして、その男の事を考えるとたまらないのです。
それは私の兄でした。兄といっても普通の兄ではありません。私は双生児の一方として生れましたので、私の殺した男というのは、名前は兄ですが、私と同時に、母の胎内から生れ出た、ふたごの片割れだったのです。