足軽奉公
本文約13,800字 ・ 読了時間 約28分
あらすじ(AIが作成しました)
三春藩の足軽小頭である右田藤六は、槍術に秀でるも身分ゆえに大試合への出場も叶わない現実に葛藤する。ある日、士分による足軽への蔑みに憤り騒動を起こして出奔する。放浪の果てに飴売りの老人から身分の上下に拘泥しない生き方を教わり、高島藩にて再び足軽として勤めることを決意する。やがて故郷から呼び戻しを受けるが、身分の分を弁え足軽として奉公する道を選び、新たな人生を歩み始める様子を描く。
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一
「なんだあの腰つきは、卵でも産もうというのかね」
「向うの男は餌差が鳥を覘っているようだ、それ、よく見当をつけろ」
「ああ外してしまった」
「まるでへた競べだねこれは」
右田藤六は思わずにっと笑った。足軽なかまの下馬評はなかなか穿っている、卵でも産みそうな腰つきとか、餌差が鳥を覘っているようだとか、みんないかにも適評で叱ることもできない。――それもその筈だ、ここにいる足軽たちの中には、かれらより数等も腕の立つ者がいるんだから。そう考えるともう見ている気もなくなり、
「あんまり悪口を云うと聞えるぞ」
と云ってかれは蓆から立上った。
「……それよりもうすぐ終るだろうから後片付けの手配でもするとしよう」
「けれどもお小頭」
と、若い足軽のひとりが立って来て云った。
「……このままでは我慢できませんね、たとえ士分の者と試合ができないにしても、足軽は足軽同志でやるにしても、来年はぜひ試合に出られるようにして頂きたいものです、あんまりひどすぎますよ」
「そうだ」
と、別のひとりもそれにつけて、
「……武芸には士分と足軽の差別はない筈だ、われわれの腕をみれば少しはかれらも奮発する気になるだろう」
「そんな望みは木によって魚を求めるようなものだ」
藤六は低くそう答えた。
「……これがせめて戦国の世なら、おれたちの腕の見せどころもあるのだが、こんな時代ではどうしようもない、まあ眼をつむって我慢するんだ」
そして幕張の外へ出てしまった。
岩代のくに三春は名駒の産地として名が高い、そのときの藩主は秋田信濃守頼季であったが、領内の産馬を陣立ての主軸に置き、中でも槍騎兵というものが特に重んぜられていた、これはかつて武田晴信のもちいた銃騎兵に比すべきもので、敵の前線を馬で突破し、一挙に内陣を攪乱する奇襲隊の役である、したがって家中では槍術が旺んにおこなわれた、それも騎乗と徒とを兼ねる秋田家独特の技法があり、横井大学という藩士が師範として、統一した稽古をつけていたのである。……しかし時代は正徳から享保に及んで、泰平の世相はさむらいの気節をも毒し、
「どうせ戦場に出るでもなし」