TRENDIA CLASSIC

日本婦道記

山本周五郎

1 / 15

「いやそうではない」新沼靱負はしずかに首を振った、「……おかやに過失があったとか、役に立たぬなどというわけでは決してない、事情さえ許せばいて貰いたいのだ。隠さずに云えばいま出てゆかれてはこちらで困るくらいなのだから」

「それでお暇が出るというのはどういうわけでございましょうか」律義に坐った膝をいっそう固くしながら多助はこう云った、「……あちらで今よく話してみたのですが妹はただ泣くばかりで、悪い処はどのようにも直して御奉公します、お暇だけはどうか勘弁して頂けますように、兄さんからもお詫を申上げて下さい、こう申しまして、どうしても家へは帰らぬと云い張っているのでございます」

「仔細はよく話したのだ、然しまるで聞分けがないので其方に来て貰ったのだが、実はこんど此処をひき払って伊予の松山へ参ることになったのだ」

山本周五郎の他の作品