TRENDIA CLASSIC

日本婦道記

山本周五郎

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「今夜は籾摺りをかたづけてしまおう、伊緒も手をかして呉れ」

夕食のあとだった、良人からなにげなくそう云われると、伊緒はなぜかしらにわかに胸騒ぎのするのを覚え、思わず良人の眼を見かえした。夕方お城からさがって来たのを出迎えたときにも、いつもはそこで大剣だけをとってかの女にわたすのに、その日にかぎって自分で持ったままあがった、顔つきもなんとなく違ってみえたし、高頬のあたりにきびしい線があらわれているように感じられた。……お城でなにかあったのかしら、そういう不安が夕食のあいだもあたまから去らなかった。そこへ常になく籾摺りを手つだえと云われたので、いよいよなにごとかあったのだと直感された。

義弟の郁之助を稽古におくりだし、姑のすぎ女と自分の食事をすませて、あとかたづけもそこそこに納屋へゆくと、良人はもうひとりで臼をまわしていた。燈油の燃ゆる匂いと、脱穀する籾の香ばしいかおりとがまじり合って、納屋の中はあまく噎っぽい匂いでいっぱいだった。

「おそくなりまして……」と云ってすぐに俵へかかろうとしたが、伝四郎は臼をとめながら、「まあ待て、少しはなしたいことがある」とふりかえった。

「その戸を閉めて、ここへ来てかけよう」

自分からさきに藁束を置きなおして腰をかけ、伊緒にも席を与えた。低い天井から吊ってある燈皿のあかりが、じいじいと音をたてながら、ふたりの上からやわらかい光をなげていた。

「おまえも聞いたであろう」

と伝四郎は低いこえで話しだした、「肥前のくに天草に暴徒が乱をおこし、内膳正(板倉重昌)さま、将監(石谷十蔵)さまが征討軍の大将として出陣なすった、それはさる十日のことだったが、このたび総督として松平伊豆守(信綱)さまとわれらがご主君(戸田氏銕)のおふた方が御発向ときまった。今日そのお使者が江戸おもてから到着し、すぐに陣ぞろえがあったのだ」

「そのお供をあそばすのでございますね」

伊緒はやっぱり予感が当ったと思い、われ知らず声をはずませた。伝四郎はうなずいて、

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