日本婦道記
本文約12,800字 ・ 読了時間 約26分
あらすじ(AIが作成しました)
天草の乱の出陣を控えた和地伝四郎は、妻の伊緒に討死の覚悟を告げ、自身が戦死した場合は離別して実家に戻るよう約束させる。その後、伝四郎は行方不明となり戦場から逃げたとの噂が広まるが、伊緒は夫の武名を汚さぬよう健気に努める。やがて軍目付らの再吟味により伝四郎の討死が認められ、家名の存続と恩賞が下される。伊緒は夫の位牌を安置し、病床の義弟郁之助を励ましながら、家を守り抜く決意を新たにする。
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一
「今夜は籾摺りをかたづけてしまおう、伊緒も手をかして呉れ」
夕食のあとだった、良人からなにげなくそう云われると、伊緒はなぜかしらにわかに胸騒ぎのするのを覚え、思わず良人の眼を見かえした。夕方お城からさがって来たのを出迎えたときにも、いつもはそこで大剣だけをとってかの女にわたすのに、その日にかぎって自分で持ったままあがった、顔つきもなんとなく違ってみえたし、高頬のあたりにきびしい線があらわれているように感じられた。……お城でなにかあったのかしら、そういう不安が夕食のあいだもあたまから去らなかった。そこへ常になく籾摺りを手つだえと云われたので、いよいよなにごとかあったのだと直感された。
義弟の郁之助を稽古におくりだし、姑のすぎ女と自分の食事をすませて、あとかたづけもそこそこに納屋へゆくと、良人はもうひとりで臼をまわしていた。燈油の燃ゆる匂いと、脱穀する籾の香ばしいかおりとがまじり合って、納屋の中はあまく噎っぽい匂いでいっぱいだった。
「おそくなりまして……」と云ってすぐに俵へかかろうとしたが、伝四郎は臼をとめながら、「まあ待て、少しはなしたいことがある」とふりかえった。
「その戸を閉めて、ここへ来てかけよう」
自分からさきに藁束を置きなおして腰をかけ、伊緒にも席を与えた。低い天井から吊ってある燈皿のあかりが、じいじいと音をたてながら、ふたりの上からやわらかい光をなげていた。
「おまえも聞いたであろう」
と伝四郎は低いこえで話しだした、「肥前のくに天草に暴徒が乱をおこし、内膳正(板倉重昌)さま、将監(石谷十蔵)さまが征討軍の大将として出陣なすった、それはさる十日のことだったが、このたび総督として松平伊豆守(信綱)さまとわれらがご主君(戸田氏銕)のおふた方が御発向ときまった。今日そのお使者が江戸おもてから到着し、すぐに陣ぞろえがあったのだ」
「そのお供をあそばすのでございますね」
伊緒はやっぱり予感が当ったと思い、われ知らず声をはずませた。伝四郎はうなずいて、