TRENDIA CLASSIC

日本婦道記

山本周五郎

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北向きの小窓のしたに机をすえて「松の花」という稿本に朱を入れていた佐野藤右衛門は、つかれをおぼえたとみえてふと朱筆をおき、めがねをはずして、両方の指でしずかに眼をさすりながら、庭のほうを見やった。窓のそとにはたくましい孟宗竹が十四五本、二三、四五とほどよくあい離れて、こまかな葉のみっしりとかさなった枝を、澄んだ朝の空気のなかにおもたげに垂れている。藤右衛門はつやつやとした竹の肌に眼をやりながら、肩から背すじへかけて綱をとおしたようなつかれの凝をかんじた。

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