TRENDIA CLASSIC
日本婦道記
山本周五郎
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一
「鰍やあ、鰍を買いなさらんか、鰍やあ」
うしろからそう呼んで来るのを聞いてお高はたちどまった。十三四歳の少年が担ぎ魚籠を背負っていそぎ足に来る、お高は、
「見せてお呉れ」
とよびとめた。籠の中にはつぶの揃った五寸あまりあるみごとな鰍が、まだ水からあげたばかりであろう、ぬれぬれと鱗を光らせてうち重なっている、思いだしたようにはげしく口を動かすのもあり、とつぜんぴしぴしと跳ねあがるのもあって、千曲川のみずの匂いが面をうつような感じだった、
「五十ばかり貰いましょう」
そう云ってから容れ物のないことに気がついた、どうしようとあたりを見やると、つい向うに荒物屋の店のあるのをみつけ、このあいだから目笊が一つほしかったのを思いだした。
「あの店で容れ物を求めますからいっしょに来てお呉れな」
「近くならお宅まで持ってゆきますよ」
少年は賢げな眼でこちらを見た、お高は頬笑みながら、それには及ばない、と云ってあるきだした。
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