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TORENDIA

日本婦道記

本文約12,100字 ・ 読了時間 約25分

あらすじ(AIが作成しました)

信濃の松代藩で父と弟を養う十九歳の少女・お高は、内職の糸繰りで生計を立てながら貧しくも慎ましく暮らす。病を抱える父は、娘を実家である西村家へ戻すことで将来を案じるが、お高はたとえ苦しくとも現在の家族と共にあることこそが真の幸せであると訴える。父娘の深い愛情と絆を描き、血の繋がりを超えた家族のあり方を問いかける物語である。

山本周五郎

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一

「鰍やあ、鰍を買いなさらんか、鰍やあ」

うしろからそう呼んで来るのを聞いてお高はたちどまった。十三四歳の少年が担ぎ魚籠を背負っていそぎ足に来る、お高は、

「見せてお呉れ」

とよびとめた。籠の中にはつぶの揃った五寸あまりあるみごとな鰍が、まだ水からあげたばかりであろう、ぬれぬれと鱗を光らせてうち重なっている、思いだしたようにはげしく口を動かすのもあり、とつぜんぴしぴしと跳ねあがるのもあって、千曲川のみずの匂いが面をうつような感じだった、

「五十ばかり貰いましょう」

そう云ってから容れ物のないことに気がついた、どうしようとあたりを見やると、つい向うに荒物屋の店のあるのをみつけ、このあいだから目笊が一つほしかったのを思いだした。

「あの店で容れ物を求めますからいっしょに来てお呉れな」

「近くならお宅まで持ってゆきますよ」

少年は賢げな眼でこちらを見た、お高は頬笑みながら、それには及ばない、と云ってあるきだした。

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