蛮人
本文約6,700字 ・ 読了時間 約14分
あらすじ(AIが作成しました)
貝殻から石灰を作る工場で働く七人の男女は、絶えず舞う灰煙に身をさらし、感情を抑圧して沈黙のうちに労働している。その中に身分を隠して働く元懲役人の男がいた。彼は周囲と交わらず生き物を愛好する孤独な性格だったが、次第に仲間の妻であるお房に執拗な視線を向け始める。不穏な空気が漂う中、真夏の工場で突如として争いが勃発し、妻の夫である茂吉が激しく傷つく事件が起こる。男は逃走の末に捕らえられたが、事件の真相は灰煙の中に閉ざされたままであった。
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貝殻を焼いて石灰をつくる工場が中堀から荒地へ出はずれたところにあった。
建物は百坪ばかりの高い二階建でもうすっかり古び、羽目板はみんなひどく乾割れているし、外側から二階へ通ずる段無しの足場も危なかしく朽ちていた。そして屋根から下どこもかしこも白い番瀝青で塗りつぶしたように灰まみれで、高いところにある小窓やそこここの隙間からは、絶えず濃霧のような灰煙が溢れ出で、それが建物を中心にたち舞っているところは、まるで凄じい吹雪のなかに取残された廃屋のように見える。
工場の前は荒地へ続く道を隔てて河になっている、堤から埋立がつき出ていて貝殻の山が類別に積まれてある、その端のほうに石炭の山があり、また荒薪や松の枯枝といった燃料が防風壁のように積重ねてある、これらがすべて灰まみれだ、そればかりではない建物のほとんど一丁四方ほどは、道も雑草もみんな死灰にまみれ、それが日光の下でひどく匂っている、稀塩酸を朽木に滲ませたように噎せっぽい酸い匂いだ。近くへ寄ってみるとごく微小な霧粒のようなものがちりちりと舞いながら落ちてくるのが見える。
工場の中では七人の労働者が働いている、彼らは裸である、わずかに恥部を三角巾で隠しているだけだ。それから頭髪を剃りつけている。まるで囚徒のようにくりくり坊主に剃っている、日にやけた赤銅色の逞しい体はすっかり灰まみれだ、眉のなかまで緻密に灰が忍びこんでいるのであたかもマスクのようにぶきみな無表情な顔つきをしている、――肉の盛上った肩の上にあるこの坊主頭は、見る者の心をぞっとさせるほど野蛮な感じであった。
彼らのうち四人は男で、あとの三人は彼らのなかの妻たちであった(男の一人は独身であったから)。彼女たちも同じように裸である、髪も刈り込んでいる、もしもその大きく張出た乳房や運動につれて豊かに揺れ動く腰の肉付がなかったならば、ほとんど男たちと見分けつかぬようすである。恥部を蔽っている三角巾もけっして男のものより広くはなかった。