TRENDIA CLASSIC

夏草戦記

山本周五郎

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慶長五年(一六〇〇)六月のある日の昏れがたに、岩代のくに白河郡の東をはしる山峡のけわしい道を越えてきた一隊百二十余人のみしらぬ武者たちが竹置という小さな谷あいの部落へはいって野営をした。……かれらは馬標も立てず、旗さし物もかかげていなかった。みんな頭から灰をかぶったように埃まみれで、誰の顔にも汗の条が塩になって乾いていた。疲れきっているとみえてむだ口をきく者もなく、部落へはいるなりぱたぱたと地面へからだを投げだす者が多かった。部将は三十二三になる眼のするどい小柄で精悍そうなからだつきの男だったが、村へ着くとすぐ二人の副将をつれて村長の家をおとずれた、そしてそこを宿所にきめ、各隊の番がしらを呼び集めて野営の命令をだした。

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