夕張の宿
本文約11,800字 ・ 読了時間 約24分
あらすじ(AIが作成しました)
北海道の夕張炭坑にある弥生寮で、順吉は痔の治療のため入院する。掃除婦で寡婦のおすぎが三歳の娘トシを連れて付き添う。順吉は東京出身の孤独な男で、おすぎは夫を亡くした過去を抱え、厳しい生活の中で二人は病院の一室で身を寄せ合う。彼らは隣の病室の老人らと交流し、芝居を観るなど束の間の穏やかな日常を共有する。おすぎは順吉の中に亡き夫の面影を感じ、順吉もまたおすぎとの交流を通じて心を通わせていく様子を描く。
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北海道の夕張炭坑に、弥生寮という炭坑夫の合宿がある。ある日、寮生の一人で坑内雑夫をしている順吉というのが、痔の手術をするために炭坑病院に入院した。順吉にはまえから痔の気があったのだが、坑内で働いているうちに悪化したのである。附添いには寮の掃除婦をしているおすぎという寡婦が附いていった。
おすぎの夫は、坑内の人車捲きの係りをしていたのだが、仕事の帰りに、疾走してくる材料運搬車に跳ねられて頓死した。一年まえのことである。殉職という名目は成り立たず、会社からはわずかな見舞金しか貰えなかった。それに夫の芳三というのが、ふだんから会社側の気受けがよくなかったのである。芳三は元来掘進夫で、仕事はよくやったが気性の荒い男であった。現場で係員と喧嘩して傷を負わせたことがある。起訴されて執行猶予になった。会社の方はべつに馘首にはならなかったが職場を変更されて、採炭には直接関係のない坑外の人車捲きの係りに廻された。芳三のような男にとってはとろくさい仕事であったが、それでも無難に勤めていたのである。夫婦の間にはトシという娘があった。その不慮の死の際、芳三は三十二であった。おすぎは二十八、トシは二つであった。芳三の死後間もなく、おすぎはトシを連れて弥生寮に掃除婦として住み込んで、ひとまず身の振り方をつけた。生前芳三とわりに親しくしていた寮長からその話が出たのである。