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TORENDIA

戦国会津唄

本文約10,500字 ・ 読了時間 約22分

あらすじ(AIが作成しました)

上杉景勝の重臣・岡野左内は極端な倹約家として知られ、吝嗇家と周囲から蔑まれている。その娘・小房は、幼馴染の許婚・市之丞が左内の金貸しのような振る舞いに反発し、両家の関係が悪化していく中で苦悩する。左内は世間の悪評を意に介さないが、市之丞との激しい対立を経て、やがて真の意図が明らかになり、二人の関係にも変化の兆しが見え始める。戦国の世を背景に、誤解と反発の中で揺れ動く若者たちの心情と運命を描く。

山本周五郎

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一

「おい見ろ、稗食い虫が行くぞ」

「やあ本当だ、おーいみんな来いよ。岡野の稗食いが通るからからかってやれ」

ばらばらと悪童たちが集まって来て小房の周囲を取巻いた。

「やい稗食いの痩せっぽち」

「蕨のねっこでも掘りに来たんか」

「晩の御飯は楢の実だろ」

手を拍ちながら声々に囃したてる、小房はどうする事も出来ず、ついには両の袂を顔に押当て、わっと泣きながら逃げて帰るのが例であった。

小房の父岡野左内は、上杉景勝の重臣で猪苗代城代を勤める一万石の大身だったが、実に思い切った倹約家で、自分はじめ娘や家来たちにも、夏は生麻の帷子、冬は木綿布子よりほかに着せなかったし、食べ物は稗や粟が常食で、それに蕨の根や蜀黍団子や楢の実などというどんな貧しい農家でも嫌うような物を、主従上下の差別なく食べていた。――一万石という大身でこの倹約、というよりは吝嗇に近い生活をしていたから、自然と莫大な金がたまる道理である。左内はそれがまた何よりも楽しいとみえ、月に一度ずつ金蔵へ入っては、あるほどの金銀を山と積んで、ただ一人それを数えるのが例であった。

豪放と恬淡を以って誇りとした戦国武士のあいだにあって、左内のような吝嗇や、金銭を愛する気風が蔑まれるのは当然である。

――左内ではない吝内殿だ。

――いかにも、稗野吝内であろう。

そういう陰口が頻りに飛んだ。

しかもそれに輪をかけるような事がもう一つあった。――常に多くの家来を養っていた当時の武将たちは、平時、金銭を軽んじて豪放な生活をしていたから、少し戦争のない年でも続くと大抵は金に窮し、鎧兜や重代の武器を手放して、辛くも家計を支えるという人々が珍しくなかった。――そこで左内の所へも金を借りに来る者が少なくない、左内はそういうとき一応は快く貸してやるが、しかしそれには厳重な期限があって、約束の日が来るとびしびし取立てるし、期日を違えるような事があると自ら相手の屋敷へ押掛けて行って、四辺近所へ聞こえよがしに罵りたてるのだった。……借りる時には一生の恩にきた連中も、そうなると逆に立腹して、

――岡野は武士に似合わぬ、まるで金貸商人のような奴だ。

と悪口を言うようになるのだった。

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