むかしむかし、まだどんな人ののぞみでも、思いどおりにかなったころのことです。
あるところに、ひとりの王さまが住んでいました。この王さまには、お姫さまがいく人もありましたが、みんなそろって、美しいかたばかりでした。なかでもいちばん下のお姫さまは、それはそれは美しいので、世のなかのいろんなことをたくさん見て知っているお日さまでさえも、お姫さまの顔をてらすたびに、びっくりしてしまうほどでした。
王さまのお城の近くに、こんもりとしげった森がありました。森のなかには古いボダイジュが一本立っていて、その木の下から泉がこんこんとわきでていました。
暑い日には、お姫さまは森のなかにはいっていって、このすずしい泉のほとりにこしをおろしました。そして、たいくつになりますと、金のまりをとりだして、それを高くほうりあげては、手でうけとめてあそびました。これがお姫さまにとっては、なによりもたのしいあそびだったのです。
ある日、お姫さまが、いつものように金のまりをなげあげて、あそんでいるうちに、ついうけそこなってしまいました。まりは地面におちると、そのまま水のなかへころころところがりこみました。
お姫さまはまりのゆくえをながめていましたが、まりは水のなかにしずんで、見えなくなってしまいました。泉はとてもとてもふかくて、底はすこしも見えません。
それで、お姫さまはしくしく泣きだしましたが、その泣き声はだんだん大きくなりました。お姫さまとしては、あのまりを、どうしてもあきらめることができないのです。こうして、お姫さまが、泣きかなしんでいますと、だれかお姫さまによびかけるものがありました。
「どうなさったんですか、お姫さま。お姫さまがそんなにお泣きになると、石までも、おかわいそうだと泣きますよ。」
お姫さまはびっくりして、声のするほうを見まわしました。すると、そこには、一ぴきのカエルが、きみのわるい、ふくれた頭を水のなかからつきだしています。
「あら、おまえさんだったのね、年よりのカエルさん、いまなにかいったのは。」
と、お姫さまがいいました。
「あたしはね、金のまりが泉のなかにおちてしまったんで、泣いているのよ。」