あるおとうさんが、ふたりのむすこをもっていました。にいさんのほうはりこうで、頭がよくて、なんでもじょうずにやってのけました。ところが、弟のほうときたら、まぬけで、なんにもわからないし、なにひとつおぼえることもできないというありさまでした。ですから、弟の顔を見るたびに、だれもかれもこういうのでした。
「こういうむすこがいたんじゃ、おやじさんはいつまでたってもたいへんだなあ!」
こんなわけですから、なにかすることのあるときには、いつもきまって、にいさんがやらされました。けれども、ときには、おそくなってからとか、どうかすると夜中などに、なにかとってきてくれと、おとうさんからいいつかることもあります。そんなとき、墓地とか、あるいはどこかおそろしい場所をとおっていかなければならないようなばあいには、にいさんはいつもこうこたえました。
「いやだ、いやだ、おとうさん。そんなところへはいかないよ。ぞっとする。」
なぜって、にいさんはこわくてたまらなかったのです。また、夜など、炉ばたで身の毛のよだつような話がでますと、きいているものは「うわあ、ぞっとする」と、よくいいます。
弟はすみっこにすわって、じぶんもその話をきいているのですが、それがなんのことやら、さっぱり見当がつきません。
「みんな、しょっちゅう、ぞっとする、ぞっとするっていってるが、おれはちっともぞっとなんかしやしねえ。こいつは、きっと、おれにはわからねえことなんだろう。」
さて、あるときのこと、おとうさんが弟にむかってこんなことをいいました。
「おい、そのすみっこにひっこんでいる小僧、おまえは、もうそのとおり大きく、がっしりした男になった。おまえもなにかひとつ、ならいおぼえて、じぶんでくっていくようにしなくちゃいかん。みろ、にいさんはいっしょうけんめいやってるのに、おまえときたら、まるではしにも棒にもかからん。」
「うん、おとうさん、おれもなにかおぼえたいよ。そうだ、もしできたら、ぞっとするってことをおぼえたいな。そいつは、おれにはちっともわからねえもの。」
にいさんはこれをきいて、わらいだしましたが、心のなかでひそかに思いました。