こわいことを知りたくて旅にでかけた男の話
本文約12,300字 ・ 読了時間 約25分
あらすじ(AIが作成しました)
恐ろしいという感情を知らない若者が、その感覚を求めて旅に出る。鐘つきの奉公を経て怪異と遭遇しても動じない若者は、王の命を受け、悪魔が潜むという呪われた城で三日三晩の寝ずの番に挑む。そこでも数々の異様な体験をするが、恐怖を覚えることはない。やがて城の魔法を解いて王女と結婚するが、それでも理解できない恐怖の正体について、王妃が策を講じてついに教えようとする過程を綴る。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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あるおとうさんが、ふたりのむすこをもっていました。にいさんのほうはりこうで、頭がよくて、なんでもじょうずにやってのけました。ところが、弟のほうときたら、まぬけで、なんにもわからないし、なにひとつおぼえることもできないというありさまでした。ですから、弟の顔を見るたびに、だれもかれもこういうのでした。
「こういうむすこがいたんじゃ、おやじさんはいつまでたってもたいへんだなあ!」
こんなわけですから、なにかすることのあるときには、いつもきまって、にいさんがやらされました。けれども、ときには、おそくなってからとか、どうかすると夜中などに、なにかとってきてくれと、おとうさんからいいつかることもあります。そんなとき、墓地とか、あるいはどこかおそろしい場所をとおっていかなければならないようなばあいには、にいさんはいつもこうこたえました。
「いやだ、いやだ、おとうさん。そんなところへはいかないよ。ぞっとする。」
なぜって、にいさんはこわくてたまらなかったのです。また、夜など、炉ばたで身の毛のよだつような話がでますと、きいているものは「うわあ、ぞっとする」と、よくいいます。
弟はすみっこにすわって、じぶんもその話をきいているのですが、それがなんのことやら、さっぱり見当がつきません。
「みんな、しょっちゅう、ぞっとする、ぞっとするっていってるが、おれはちっともぞっとなんかしやしねえ。こいつは、きっと、おれにはわからねえことなんだろう。」
さて、あるときのこと、おとうさんが弟にむかってこんなことをいいました。
「おい、そのすみっこにひっこんでいる小僧、おまえは、もうそのとおり大きく、がっしりした男になった。おまえもなにかひとつ、ならいおぼえて、じぶんでくっていくようにしなくちゃいかん。みろ、にいさんはいっしょうけんめいやってるのに、おまえときたら、まるではしにも棒にもかからん。」
「うん、おとうさん、おれもなにかおぼえたいよ。そうだ、もしできたら、ぞっとするってことをおぼえたいな。そいつは、おれにはちっともわからねえもの。」
にいさんはこれをきいて、わらいだしましたが、心のなかでひそかに思いました。