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TORENDIA

父

本文約5,200字 ・ 読了時間 約11分

あらすじ(AIが作成しました)

母を亡くしたジャンは、葬儀の直後に老女中から母の遺書を託される。そこにはジャンが育ての父の実子ではないという秘密と、実父の名が記されていた。長年自分を慈しみ、深い愛情を注いできた父の温かさに触れながら、出自の真実に苦悩する。虚偽を抱えて生きる葛藤の中、ジャンは母の手紙を燃やして秘密を葬り去ることを選ぶ。そして、実父の名を知ることを拒み、これからも父の息子として生きる決意を込めて父の肩にすがりつく。

モーリス・ルヴェル Maurice Level

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🎧 父 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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最後の一耘の土を墓穴へかぶせてしまって、お終いの挨拶がすむと、父子はゆったりした歩調で家の方へ帰って行ったが、その一歩一歩がひどく大儀そうであった。二人とも無言で歩いていた。長い混雑の後に起るくたびれが急に出てきて、物をいうさえもおっくうだった。

家へ帰ってみると、柩に供えた花の香気が、まだそこいらに残っていた。この数日来、多数の人の出入りやら悲歎やらで込合っていたが、今は家の中が静閑とがらんどうになって、妙に改たまった感じがするのであった。

年老った女中が一足先きに戻って、後片付をすましていた。父子は、まるで長旅からでも帰って来たような気がした。そのくせ、帰りつくなりほっとして『ああ自分の家ほどいいところがない』というような、晴れ晴れした気持にはなれなかった。

しかし家の中の体裁は、前と少しも変ったところがなく、飼猫は例のごとく炉辺にうずくまって、ごろごろ喉を鳴らしており、そして冬の日射しが柔かく窓硝子を染めていた。

父親は炉のそばに腰をおろし、首をふって溜息をつきながら、

「可憫そうだったな、お前のお母さんは」

そういったかと思うと、涙が一杯に湧いてきて、歎きと、街の冷たさと、室内の急な暖かさで赤くなったその好人物らしい丸顔を伝わって、はらはらと流れた。

彼は暫く黙りこんで、猫の喉鳴きや、時計のチクタクや、火皿の上に薪のはねる音を聞いていたが、何だか物足りない。それ以上にもっと何かを聞きたいような心持だ。けれどまた一方には、死んだ者は永久に死んでしまったが、自分は幸いにまだ生きているという、一種の満足に似た感じを意識しながら、倅の方へ話しかけた。

「お前はジュポン家の人達に会ったかい。野辺送りに来ていたがな。あの御老体も来てくれたので、ほんとうに難有かったよ。お前のお母さんは彼家の人達が大好きだったんだ。ときに、お前の友達のプレマールは来ていたかい。多分来てくれただろうが、あのように大勢になると見分けがつかんもんだな」

父親は再び吐息をついて、

「ああ、お前も可憫そうだな」

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