最後の一耘の土を墓穴へかぶせてしまって、お終いの挨拶がすむと、父子はゆったりした歩調で家の方へ帰って行ったが、その一歩一歩がひどく大儀そうであった。二人とも無言で歩いていた。長い混雑の後に起るくたびれが急に出てきて、物をいうさえもおっくうだった。
家へ帰ってみると、柩に供えた花の香気が、まだそこいらに残っていた。この数日来、多数の人の出入りやら悲歎やらで込合っていたが、今は家の中が静閑とがらんどうになって、妙に改たまった感じがするのであった。
年老った女中が一足先きに戻って、後片付をすましていた。父子は、まるで長旅からでも帰って来たような気がした。そのくせ、帰りつくなりほっとして『ああ自分の家ほどいいところがない』というような、晴れ晴れした気持にはなれなかった。
しかし家の中の体裁は、前と少しも変ったところがなく、飼猫は例のごとく炉辺にうずくまって、ごろごろ喉を鳴らしており、そして冬の日射しが柔かく窓硝子を染めていた。
父親は炉のそばに腰をおろし、首をふって溜息をつきながら、
「可憫そうだったな、お前のお母さんは」
そういったかと思うと、涙が一杯に湧いてきて、歎きと、街の冷たさと、室内の急な暖かさで赤くなったその好人物らしい丸顔を伝わって、はらはらと流れた。
彼は暫く黙りこんで、猫の喉鳴きや、時計のチクタクや、火皿の上に薪のはねる音を聞いていたが、何だか物足りない。それ以上にもっと何かを聞きたいような心持だ。けれどまた一方には、死んだ者は永久に死んでしまったが、自分は幸いにまだ生きているという、一種の満足に似た感じを意識しながら、倅の方へ話しかけた。
「お前はジュポン家の人達に会ったかい。野辺送りに来ていたがな。あの御老体も来てくれたので、ほんとうに難有かったよ。お前のお母さんは彼家の人達が大好きだったんだ。ときに、お前の友達のプレマールは来ていたかい。多分来てくれただろうが、あのように大勢になると見分けがつかんもんだな」
父親は再び吐息をついて、
「ああ、お前も可憫そうだな」