本文へ移動
TORENDIA

生さぬ児

本文約5,500字 ・ 読了時間 約12分

あらすじ(AIが作成しました)

村の噂から妻の不貞を疑った夫は、激昂して子供の出自を問い詰める。子供の容貌が情夫に酷似していると確信した夫は、湧き上がる憎悪と疑念に苛まれる。折しも家の周囲には狂犬がうろついており、夫は子供を戸外へ突き飛ばす。その直後、外から響いた叫び声に驚き駆け出した母親は、狂犬に襲われ変わり果てた姿の子供を抱きかかえる。真実を追究する果てに、取り返しのつかない悲劇が一家を襲う。

モーリス・ルヴェル Maurice Level

速度
🎧 生さぬ児 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 7

男は腰掛に腰を据え卓子に片肱ついて、肉汁をさも不味そうに、一匙ずつのっそりのっそりと口へはこんでいた。

女房は炉のそばに突立って、薪架の上に紅く燃えてパチパチ爆ねる細薪をば、木履のつま尖で蹴かえしながら頻りに何か話しかけたが、男はむっつり黙りこんでいて滅多に返事もしない。

「シャプーの家では、あの老ぼれの牝鶏を皆んな片づけたって、真実かね? それからリゾアの家では、乳酪がすっかり溶けてしまったっていうじゃないの」

「そんなことをおれが知るもんか」

と男は顔もあげずに、口の中でいった。

「それはそうと、お前さん、仕事の方はどうだったの。好い手間になって?」

「何を云うんだい」

「あら、大層御機嫌がわるいのね。何うしたっていうの」

男は匙をおいた。そして両腕をつきだし、卓子の上に拳骨を構えて、大きな小麦袋でも抜き取ろうとする時のように、ふうっと深い溜息を一つ吐いたが、

「それはな……それはな……」

と云いかけてふと口を噤んだ。そして一度押しのけた皿をまた手許へひきよせ、麺麭を小さく切ってからナイフを閉めて、それから手の甲で口を押拭いながら、

「何でもねえんだよ」

「お前さん、何か怒ってるんだね」

「何でもねえよ、煩さいっ」

二人は沈黙した。外では雨が屋根瓦をたたき、風は樹々の枝に吹き荒れて、煙突にまでも呻りこんでいた。炉の火は威勢よく燃えさかり、その大きな焔の舌がへらへらと壁に舞いあがっていた。

「スープはもう済んだの? もっと何かあげようか」

男は首をふって、

「沢山だ」

素気ない返事をして、眼をしばたたいていた。女房は何だかじっとしていられないといった風で、また村の噂話しをやりだした――まるで何ヶ月も家を空けて村の噂をば何くれと聞きたがる人にでも物をいうような調子で、

「お前さん知らないの? ウールトオの家の犬ね、あの大かい赤犬よ。彼犬が狂犬になったんだとさ。それでね、射殺そうとして鉄砲を取りに行っているうちに、彼犬が逃げだして、それっきり何処へ行ってしまったのか、誰も見かけた者がないっていうのよ」

男は知らん顔で口笛を鳴らしていた。と、女房は口惜しがって、

モーリス・ルヴェル Maurice Levelの他の作品

🎧
犬舎
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約14分
🎧
孤独
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約18分
🎧
誤診
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約14分
🎧
集金掛
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約12分
🎧
情状酌量
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約16分
🎧
小さきもの
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約12分
🎧
父
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約13分
🎧
蕩児ミロン
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約15分
🎧
二人の母親
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約9分
🎧
見開いた眼
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約10分
🎧
麦畑
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約10分
🎧
闇と寂寞
モーリス・ルヴェル Maurice Level ・ 約11分

同じジャンルの朗読つきの本