にいさんが妹の手をとって、いいました。
「おかあさんが死んじゃってから、ぼくたちには、いいことって、ただの一時間もないねえ。こんどのおかあさんたら、まい日まい日、ぼくたちをぶつし、そばへいけば、足でけとばすんだもの。それに、ぼくたちの食べものといえば、食べのこしの、かたいパンのこばだろう。テーブルの下にいる犬のほうが、ぼくたちよりゃずっとましだよ。おかあさんは、ぼくたちにゃくれなくったって、犬にゃ、ときどき、うまいものをほうってやってるもの。死んだおかあさんがこんなことを知ったら、それこそたいへんだよ。ね、ひろい世のなかへ、ぼくたちでていこうよ。」
ふたりは、一日じゅう、草原や、畑や、石っころの上を歩いていきました。雨がふってきますと、小さい妹は、
「神さまと、あたしたちの心がいっしょになって、泣いてるのねえ。」
と、いいました。
日がくれるころ、ふたりはある大きな森のなかにはいりこみました。ふたりは、心配なのと、おなかがへったのと、長いあいだ歩いたのとで、すっかりくたびれていました。それで、とある木のうろのなかへはいりますと、すぐにねいってしまいました。
あくる朝、ふたりが目をさましたときには、お日さまはもう高くのぼっていて、木のうろのなかまで、かんかんさしこんでいました。そのとき、にいさんがいいました。
「ねえ、ぼくはのどがかわいちゃったよ。泉のあるところがわかりゃ、いってのんでくるんだけどなあ。おやっ、なんだかさらさらいう水音がきこえるようだよ。」
にいさんは立ちあがって、妹の手をとりました。ふたりは泉をさがしにいこうというのです。
ところが、あのわるいまま母というのは、じつは、魔法使いの女だったのです。ですから、ふたりの子どもがにげだしたことも、もうちゃんと知っていて、気がつかれないように、そうっとふたりのあとをつけてきていたのでした。
魔法使いの女というものは、みんな、そんなふうにそうっと歩くものなのです。そして、この女は、森のなかの泉という泉に、魔法をかけておいたのでした。