むかし、あるところに、夫婦が住んでおりました。ふたりは、長い年月のあいだ、子どもをひとりほしいと思っていましたが、どうしてもさずかりませんでした。けれども、ようやく神さまがその願いをかなえてくださりそうなようすが、おかみさんにみえてきました。
この夫婦のうちのうしろがわには、小さな窓がありました。その窓からは、世にも美しい花や野菜のいっぱいうわっている、きれいな庭が見えました。けれども、その庭は高いへいにとりかこまれていました。しかも、その庭は、たいへんな勢力をもっていて、世間の人たちからおそれられている、ある魔法使いのばあさんのものでしたから、だれひとりそのなかへはいっていこうとするものはありませんでした。
ある日のこと、おかみさんがこの窓ぎわに立って、庭を見おろしていますと、それはそれはきれいなラプンツェル(チシャ)のうえてある野菜畑が目につきました。みるからに、みずみずしく、青あおとしたラプンツェルです。おかみさんはそれがほしくてたまらなくなって、なんとかして食べたいものだと思いました。
しかもその思いは、日ましにはげしくなるばかりでした。けれども、それがとても手にいれられないことはわかりきっていましたので、おかみさんはすっかりやせほそって、顔色もあおざめ、見るかげもないようになってきました。
これを見て、亭主はびっくりして、たずねました。
「おまえ、どうしたんだい。」
「ああ、ああ、うちのうらの庭のラプンツェルが食べられなかったら、あたしゃ死んでしまうよ。」
と、おかみさんはこたえました。
亭主は、おかみさんがかわいくてなりませんので、
「女房を死なせるくらいなら、あのラプンツェルをとってきてやれ。どうなったって、かまうものか。」
と、思いました。
そこで亭主は、夕やみにまぎれて、へいをのりこえました。魔法使いの庭にはいるがはやいか、おおいそぎでラプンツェルをひとつかみとって、おかみさんのところへもってきてやりました。