TRENDIA CLASSIC

漁師とそのおかみさんの話

グリム Grimm

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むかしむかし、ひとりの漁師とそのおかみさんがおりました。ふたりは、海のすぐそばの小屋に住んでいました。漁師はまい日魚つりにでかけました。あけてもくれても、魚つりばかりしていました。

あるとき、漁師はつりざおのそばにすわって、きらきらかがやく水のなかをじっとのぞきこんでいました。漁師は、いつまでもすわったきりでした。

と、とつぜん、つり糸が水底ふかくぐんぐんしずんでいきました。漁師がさおをあげてみますと、大きなヒラメがかかっていました。すると、そのヒラメが漁師にむかっていいました。

「ねえ、漁師さん、おねがいだから、わたしを生かしておいてください。わたしは、ほんとうはヒラメではなくって、魔法をかけられている王子なんです。あなたがわたしを殺したところで、なんの役にたちましょう。食べてもおいしくはありませんよ。どうかもういちどわたしを水のなかにいれて、にがしてください。」

「よしよし。」

と、漁師はいいました。

「そんなにいろいろいいたてなくてもいい。口のきけるヒラメなら、にがさずにおくもんかい。」

こういって、漁師はきらきらかがやいている水のなかへ、もういちど魚をはなしてやりました。ヒラメは水底へもぐっていきましたが、あとへ長い血のすじをのこしていきました。そこで、漁師は立ちあがって、おかみさんのいる小屋にかえっていきました。

「おまえさん、きょうはなんにもとれなかったのかい。」

と、おかみさんがたずねました。

「うん、なんにもだ。」

と、漁師はいいました。

「ヒラメを一ぴきとりはしたがな、そいつが魔法をかけられた王子だっていうもんだから、またにがしてやっちまった。」

「で、おまえさん、そいつになんにもたのまなかったの。」

と、おかみさんがたずねました。

「そうよ。」

と、漁師はいいました。

「いったい、なにをたのもうっていうんだい。」

「あきれたねえ。」

と、おかみさんがいいました。

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