ウェストミンスター寺院
本文約10,600字 ・ 読了時間 約22分
あらすじ(AIが作成しました)
ウェストミンスター寺院を逍遥した著者が、寺院に並ぶ王侯貴族や偉人の墓碑を眺め、死の静寂の中で人間の野心や名声がいかに儚く、いずれ忘却へと消え去る運命にあるかを瞑想する随筆である。栄光に満ちた過去の偉業が時の流れとともに塵と化す様を厳粛な筆致で描き、歴史や記念碑が抱える本質的な虚無を論じている。
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深いおどろきにうたれて、
名高いウェストミンスターに
真鍮や石の記念碑となって
すべての王侯貴族が集まっているのをみれば、
今はさげすみも、ほこりも、見栄もない。
善にかえった貴人の姿、
華美と俗世の権勢をすてた
けがれのない帝王の姿がみえるではないか。
いろどられた、おもちゃのような墓石に
今は静かに物云わぬ魂がどんなに満足していることか。
かつてはその足にふまえた全世界をもってしても
その欲望を満たすこともおさえることも出来なかったのに。
生とは冷たい幸福の結ぶ氷であり、
死とはあらゆる人間の虚栄をとかす霜解けである。
――「クリストレロの諷刺詩」一五九八年、T・B作
秋も更けて、暁闇がすぐに黄昏となり、暮れてゆく年に憂愁をなげかけるころの、おだやかな、むしろ物さびしいある日、わたしはウェストミンスター寺院を逍遥して数時間すごしたことがある。悲しげな古い大伽藍の荘厳さには、この季節の感覚になにかぴったりするものがあった。その入口を通ったとき、わたしは、昔の人の住む国に逆もどりし、過ぎ去った時代の闇のなかに身を没してゆくような気がした。
わたしはウェストミンスター・スクールの中庭から入り、低い円天井の長い廊下を通って行ったが、そこは巨大な壁にあけられた円形の穴でかすかに一部分が明るくなっているだけなので、あたかも地下に潜ったような感じがした。この暗い廊下を通して廻廊が遠くに見え、聖堂守の老人の黒い衣をまとった姿が、うす暗い円天井の下に動き、近くの墓地からぬけ出してきた幽霊のように見えた。